苦難の南部戦線

 善戦ではなく苦戦。でもやめることはできない。
 見通しのない苦境にウクライナは陥っている。いつまでこの状況に耐えられるか。真に問われるのは勝ち負けより、ウクライナ人がどこまでウクライナ的でいられるかかもしれない。
 そんなことを、戦争のいまの焦点、南部ヘルソン地域での激しい戦闘についてのはじめての“現地報告”を読んで思いました (Wounded Ukrainian soldiers reveal steep toll of Kherson offensive. By John Hudson. September 7, 2022. The Washington Post)。

 ウクライナの戦争報道は、ここしばらく空白です。
 ザポリージャ原発について散発的なニュースがあるものの、もっとも注目される南部ヘルソン地域での戦況は厚いベールに包まれている。ウクライナ政府がこれまでにない厳しい報道管制をしいているためで、どのメディアも戦況がつかめない。
 その厚いベールをかいくぐって、ワシントン・ポストのジョン・ハドソン記者がはじめて“南部ウクライナ発”の記事を掲載しました。

 南部戦線で負傷した9人の兵士へのインタビューです。9人は、別々の8つの部隊の兵士だといい、彼らの証言からある程度の戦況が見えてきます。
 それによれば、激しい戦闘でウクライナ軍は苦戦している。防御陣地に立てこもるロシア軍をたたく十分な火砲がない。一方ロシア軍は豊富な武器弾薬でウクライナ軍を寄せつけない。戦車は防空壕に守られながら砲撃を加えてくる。ウクライナ側が砲撃してくれば反撃し、ドローンでウクライナ兵を捕捉し攻撃する。一方ウクライナ側のドローンは妨害無線で無力化されてしまう。
 負傷兵のひとりは、ロシア兵1人が戦死するごとにウクライナ兵5人が死んでいるともいいます。ただの比喩だとしても、ウクライナ軍はかなりの死傷者を出している。少なくとも現地の兵士はそう見ている。

”解放”した南部の町に旗を揚げるウクライナ兵
(9月4日。K. Tymoshenko氏 Twitter から)

 にもかかわらず、士気は失われていないようです。戦争は攻撃する側に被害が多いのは当然で、先の見通しはない。けれどいまそれをやめるわけにはいかない。そういう声が司令官ではなく兵卒から聞かれる。オレクサンドルという負傷兵が収容先の病院でいっています。
「前向きになるためには、笑ってなきゃいけない。それがウクライナ人なんだ」

 ウクライナの戦争はことしはじまったことではありません。2014年からの連続。あるいは、何百年にもわたる支配と抑圧への抵抗。兵士オレクサンドルの笑いは、歴史の深みから出てくるものでしょう。ロシアがウクライナを叩けば叩くほど、ウクライナの笑いは広がり消えることはない。そんなイメージをぼくは抱きます。
(2022年9月8日)