複数のシングル

 家族の形はいろいろです。
 決まった形がひとつあるより、いろいろな形がたくさんある方がいい。
 そんなふうに思わせてくれる話がありました。アメリカのメリーランド州で、シングルマザーが力を合わせて一軒の家を買い、ともに共同生活をはじめたという話をワシントン・ポストが伝えています(March 17, 2022, The Washington Post)。

 ことのはじまりは、2人のシングルマザー、ホリー・ハーパーさんとヘリン・ホッパーさんが2年前、仕事と子育てのたいへんさを話し合ったことだったといいます。毎日追い詰められていっぱい、誰か助けてくれないだろうかと。
 冗談まじりに、家一軒買おうかといったのが本気の話になりました。
「漂ってたんです」というハーパーさんは、9歳の娘を抱えた経営コンサルタント。
「あたしはなんでこんなになっちゃったの?」というホッパーさんは、9歳と13歳の2児を抱える弁護士。ともに、シングルマザーになって、伝統的な家族の姿を考え直すようになりました。

 そしてふたりは、4家族が住める大きな家を買います。もちろんローンで。
 そこにもうひとりのシングルマザーとシングル女性が現れ、いっしょに住むようになりました。
 2020年の年末までに、40歳から46歳の4人の女性が5人の子どもとともにひとつ屋根の下で暮らすようになったのです。とはいえ4人にはそれぞれに区切られた居住空間と共用の空間があり、子どものめんどうは手の空いた人ができるようになっている。
 いまのところは誰もがなんとすばらしい暮らしかと、それぞれにこの共同生活に納得しているようです。

 とはいえ、ハーパーさんはいっています。いい人たちとの出会いがなければ実現できなかったと。
 これはやはりシングルマザー、シングル女性の集まりだからできたことでしょう。男性だとこうはならないのではないか。またこの話は、たまたまそれだけの社会経験とキャリア、経済力のある女性たちだったから可能になったことです。誰でもどこでもできるというわけではない。それを承知のうえでいうのですが、この例は示唆に富んでいます。

 じつはぼくのまわりにも、似たような女性たちのつながりがあります。
 ただ共同で暮らすのではない。家族のようなつながりを持ちながら、でも従来の家族とはちがう形でともに暮らす人びと。それを家族と呼ぶのはおかしいかもしれないけれど、ぼくは血縁ではないところで広がる家族を考えます。そこに家族というものの新しい姿、可能性があるではないかという気がしています。
(2022年4月2日)