謝ったらゆるす

 ホロコーストは人種問題ではない、という発言が問題になったと書きました(2月7日)。
 大物女優、ウーピー・ゴールドバーグさんの発言です。ホロコーストは白人同士のあいだで起きたのだから人種問題ではないといいたかったのでしょう。
 でもそれはちがう。ナチスはユダヤ人を「劣等人種」とみなし大量殺戮を行ったのだから、ホロコーストはアメリカの黒人差別と本質的に変わらない人種問題だと、ユダヤ人の団体などがこぞって反発し、ゴールドバーグさんは2週間のテレビ出演停止処分となりました。

ウーピー・ゴールドバーグさん
(Credit: DeShaun Craddock, Openverse)

 ところが、この処分はおかしいとユダヤ人が異議を申し立てています。処分が軽いのではない。やりすぎだというのです(Whoopi Goldberg Apologized. Punishing Her Further Is Un-Jewish. By Nathan Hersh, Feb. 9, 2022, The New York Times)。

 ユダヤ人作家のネイサン・ハーシュさんが寄稿した意見は示唆に富んでいます。
 ハーシュさんは、ゴールドバーグさんが問題発言のあとすぐ「人を傷つけてしまったことを謝ります」とツイートしたことを踏まえ、いっています。
 彼女の発言はヘイトからではなく、理解不足からきたものだ。それを出演停止にするのは自分たちには受け入れがたいことだ。
「12世紀のユダヤ人学者マイモニデスもいっている。まちがいがあったらその人が自身の無知を正せるように助けるべきだ。謝罪を受け入れないというような残酷なことをすべきではない」

 ホロコーストについて問題発言や理解不足があっても、本人がまちがいに気づき、謝罪すれば処罰まですべきではない。テレビへの出演停止で「黙らせる」ようなことは真の対策ではないとハーシュさんはいいます。ではどうすればいいか。黙らせるのではなく議論することです。
 処罰は、恥をすりこみ、恥は真実や歴史に向きあうよりむしろ恨みを生んでしまう。黙らせること、恨みを増大させることは対立心をあおるだけだ。必要なのは、むずかしいかもしれないけれど教育だ。その教育にいたるために、まず議論が必要だというのでしょう。

 ハーシュさんによれば、「反ユダヤ」は人類最古のヘイトだそうです。
 そのヘイトに、ユダヤ人は4千年向きあってきた。そして「黙らせる」のではなく、「議論する」ことでしか対応できないと身をもって知り、律法書をはじめとする文化のなかにその知恵を埋め込んできました。
 出演停止にするのではなくテレビに出しつづける。そして議論する。
 むずかしいとはいえ、さまざまなヘイトや対立を考えるうえで見習うべき心得です。
(2022年2月10日)