防空壕のブーム

 ヨーロッパで防空壕の建設ブームが起きているといいます。
 核戦争への対策として。
 大部分の日本人の感覚からすれば何をバカなことを、ということになるでしょう。でもウクライナ戦争が、ヨーロッパの人びとの感覚を一変させているようです(Pandemic Fears Give Way to a Rush for Bomb Shelters. March 12, 2022. The New York Times)。

 イタリアの防空壕建設業者、ジュリオ・カヴィッキオリさんは過去22年間に防空壕を50か所つくりました。地下の、空気浄化装置つきの住居です。ところがこの2週間で問い合わせが500件も殺到しました。
 フランスの同業者、マシュー・セラヌさんも事情は似たようなものです。
 うちの防空壕は1億円もするから、金持ちが趣味でするようなことだった、でも2週間前からふつうの人が300件も問い合わせてきたので、簡易版の防空壕を2千万円弱でつくりはじめたといいます。

 核戦争に備えた防空壕は日本ではあまり聞いたことがないけれど、厳しい冷戦期にヨーロッパでは相当数の建設が進みました。
 有名なのはロシアの隣にあるフィンランドです。ずっと防空壕の建設をつづけており、現在の収容能力は5万か所、400万人分です。全人口が550万人だから、有事の際は国民のほとんどがどこかの防空壕に入れることになっている。
 またスイスは、1960年代に法律で住居に防空壕をつくることが義務付けられました。だから防空壕、シェルターは日常の光景です。いまそうした設備は35万か所もあり、最大のものは2万人が収容できる規模だといいます。

 核戦争に備えての防空壕やシェルター、避難所は、冷戦後はその存在意義が薄れていました。でもウクライナの戦争がはじまり、それがただの地域紛争などではなく第三次世界大戦への潜在的な危険を高めているということで、ふたたび真剣な目が向けられるようになりました。
 防空壕とともに、放射線被曝対策であるヨード剤の需要も高まっています。

 アメリカはウクライナ戦争のはじまりを正確に予知したけれど、終わりは見通せていません。長期の悲惨な結末への悲観論が強まっています。その過程のどこかで、泥沼に陥ったプーチン大統領が「戦術核」や「戦場核」を投入する危険は無視できない。そう考えながら事態を見ていかなければならないと、ぼくは思うようになりました。
(2022年3月14日)