飛行機雲のまぼろし

 いまからちょうど50年前でした。
 荒井由実の「ひこうき雲」。最初に聞いたときから忘れられない歌です。
 ・・・あの子の いのちは ひこうき雲・・・
 白い坂道が空にのびる。その向こうに飛行機雲。あの子が空をかけている。
 死んだ男の子への思い。空の、ことに冬空のくっきりとした飛行機雲を見ると、いつもではないけれど、ときどきぼくは荒井由実のこの歌を思い出します。飛行機雲は、永遠とつながるひとつの美でした。
 だのにそのイメージが変わっている。あれは「美」ではなく「醜」かもしれないと。

 飛行機雲は地球温暖化の元凶のひとつだというのですね(Could Air Someday Power Your Flight? Airlines Are Betting on It. Jan. 19, 2023, The New York Times)。
 そもそも飛行機に乗ることは、列車などの地上の交通機関よりよほど温暖化を進める。だから環境運動家のグレタ・トゥーンベリさんは飛行機に乗らず、船や電車で移動します。でも飛行機の需要は今後20年で2倍に増えると予測されている。早急に対策を取らなければならないということで、国連は2050年までに飛行機の炭素排出量をゼロにする目標を立てています。
 石油ではなく水素を燃やすとか、電気で飛ばすとか、さまざまな技術革新が構想されている。ジェット燃料にSAF(sustainable aviation fuel)という、食用油の廃油などの合成燃料を混ぜる実践もはじまっています。

 議論の過程で出てきたのが飛行機雲の問題でした。
 飛行機雲は、地上の熱を閉じこめる役割を果たすらしい。飛行機雲って、他の雲にくらべたら微々たるもんだろうと思うのですが、世界有数の工科大学、MITのスティーブン・バレット教授はいいます。
「過去20年の研究で、飛行機雲の温暖化への影響はかなりのものだとわかってきた。二酸化炭素の排出とおなじくらいに」
 飛行機雲と温暖化の関係はきわめて複雑な計算になるらしい。教授によると、飛行機雲は飛行機が出す二酸化炭素の最高で3倍もの温暖化効果があります。だから飛行機雲をできるだけ出さないようにした方がいい。でもこれは飛び方を少し変えればできることなので、対策は取りやすいといいます。
「飛行機雲の調節ができれば、飛行機がもたらす温暖化の効果をかなりの程度まで減らすことができるでしょう」

 水素で飛ぶような新時代の飛行機が実用化されるまでは、燃料をくふうしたり飛び方を調整したりして、なるべく雲を出さないようにする。そういった対策が必要になるでしょう。
 飛行機雲のロマンは、飛行機雲とおなじように、消えてなくなろうとしています。
(2023年1月27日)