食べ物を捨てない

 野菜や果物に「賞味期限」をつけない。
 ロンドンではこんな試みが進んでいるそうです。賞味期限がついていると、食べられるはずなのに捨ててしまうことがあるから。食べ物を大事にするということは、賞味期限内に食べるのではなく、食べられる食品を捨てないこと。紛らわしい賞味期限はなくしちゃおう、というのです。
 なんだかややこしいし、ささいなことじゃないかとも思うけれど、よく考えてみると大事な話です。

 一方カリフォルニアでは、スーパーで売れ残った食品は勝手に捨ててはいけない、できるだけ寄付するように努めなさい、という法律ができました。
 食べ物を大事にする。そのために「寄付」を義務付ける。これは地域の貧困対策にもなります。
 こうした、食べ物を大事にするさまざまな動きが世界的なトレンドになりました(Inside the Global Effort to Keep Perfectly Good Food Out of the Dump. Oct. 13, 2022, The New York Times)。

 食べ物を捨てないのは、地球温暖化への重要な対策にもなります。
 消費されずにゴミとして捨てられる食品は、燃すのに大量の石油を使う。そのまま捨てられれば腐って大量のメタンガスが発生する。世界的に見て、炭酸ガスやメタンガスなど温暖化の原因となるガスの8%から10%は食品廃棄物から生じている。これは航空機の排出ガスの少なくとも2倍だというから、食べ物を大事にするのは地球を守ることにもなります。

 スペインでは、レストランの食べ残しを持ち帰る運動が進んでいる。
 韓国では生ゴミのほとんどが家畜の飼料になるか、コンポストになっている。ゴミを使ったバイオガス発電もはじまりました。いまはゴミ容器に特別なセンサーを付ける実験を進めており、各家庭でどれだけ生ゴミを出しているか計量できるようにしている。その量に応じて課金する方向でしょう。こうした対策のおかげで、2010年に1日3400万トンだった食品廃棄物は9年後、2800万トンにまで減りました。

 こうしたことのすべては、長い人類の歴史のこの数十年にかぎられたことです。
 何万年にもわたり、人間は自分で手に入れられるだけの食べ物を食べ、余すということはありませんでした。いま全世界で食品の31%はあまり、捨てられています。そんな暮らしをぼくらは当たり前と思ってきたけれど、考えてみればぜいたくというより罪深い暮らしではないでしょうか。

 賞味期限を考え直し、スーパーの売れ残りを寄付し、コンポストを進める。いますぐできなくても、そういう暮らし方があることを覚えておきたいものです。
(2022年10月18日)