21世紀版・核の冬

 アメリカとロシアが核戦争を起こせば、世界中で50億人が死亡する。
 こんな予測を欧米の科学者がまとめました。
 50億人って、想像がつかないというより笑ってしまうような、とんでもない数字です。でもウクライナ戦争ではプーチン大統領が核の使用をちらつかせている。中国が台湾に侵攻したら、ちょっとした誤算でも米中の核戦争は現実のものになりうる。そういう時代に生きている身としては、やはり頭の片隅に刻まなければならない数字でしょう。

 この予測をまとめたのはラトガース大学の環境科学者リリー・ジアさんら、11の大学や国際機関で気象や地球環境などを研究する14人の科学者です。学術誌ネイチャー・フード(Nature Food)に8月15日付で発表されました。ネット上で公開されているので、原論文を読むことができます。

 ジアさんらの研究は、インドとパキスタン、アメリカとロシアなど、核保有国同士が核戦争を起こしたらどうなるかを、6つのシナリオで検討しています。
 たとえばアメリカとロシアの場合、核戦争は1週間つづき、大量の核兵器が使用される。両国に投下された核爆弾は都市部を中心に広範な火災を起こし、成層圏に膨大な量の煙を巻き上げる。このススを含んだ煙、ばい煙が全地球をおおうと、地球は急激に寒冷化して「核の冬」を迎えます。穀物の収量は90%も低下し、核戦争が起きてから10年間で50億人が死亡すると推測されています。
 要するに大量の煙が成層圏をおおい、太陽の光が届かなくなって冬になる。その冬を人類は生きのびられないということです。
 50億の死者というのは核戦争の直接の被害者ではなく、飢饉による餓死なのですね。

 ということは、です。かりに高性能の核シェルターに避難し、いったん核戦争を生きのびたとしても、やがて食べるものがなくなるということです。論文はダメ押しのように、「食料をどんなに節約しても、カロリー不足を補うことはできない」といっている。穀物が穫れないなら魚介類でしのごうといっても、それもできなくなるといっています。

 論文の最後にはこうあります。
「1985年にレーガン大統領とソ連のゴルバチョフ首相が宣言し、2021年にバイデン大統領とプーチン大統領がくり返したように、核戦争に勝利はない、だから核戦争を戦ってはならない」
 この大事なことが“あの人”はほんとにわかっているんだろうか。不安です。
(2022年8月18日)