25年の旅

 結婚式ってきらいなんですよ。思わずそういってしまいました。
 先日、友人と雑談していたときのことです。ぼくとおなじ年代のその友人には息子がいました。結婚はしていないけれど、彼女と暮らしている。最近はそういうケースが増えましたよね、と話していたときのことでした。

 結婚しなくてもいいんじゃないですか。少なくとも結婚式はあげなくてもいい。ぼくはあれがきらいなんですよ。
 そういったら友人が即座に、あたしもきらいです、とうなずいたのです。
 たぶんはじめてです。こんなにはっきり結婚式ぎらいをいう人に会ったのは。
 そんなことをいうのは、この社会ではかなりの変人です。頭がおかしいと思われてしまう。おめでたい席なんだから、いやでも笑顔で臨むべきだというのが常識でしょう。ぼくにはそういう常識が欠けています。

 しばらく前にニューヨーク・タイムズに載った「結婚式ぎらいの告白」という記事を思い出しました(Confessions of a Wedding Hater. By John Searles. March 17, 2022, The New York Times)。
 作家のジョン・サールズさんが、結婚式の招待状を受け取った瞬間からのやるせなさを告白しています。
 時代がかった文章と字面の招待状を受けとり、よろこんで出ますと返事はするけれど、ほんとにいやなんだよね、ああいうの、という意味のことを書いている。

 そういいながらサールズさんは、自分がどういう結婚式をしたか書きました。詳細は省くけれど、要するにケーキだの花束だのばかばかしい形式はなし、家でこじんまり、少人数でほんとに二人の愛を祝うための場にしたそうです。
 ま、そういう結婚式だったら出てもいいかなとぼくは思いました。

 いや、そんな結婚式は、日本ではないかな。
 サールズさんは最初のデートから結婚までに25年かかっています。ゲイだから、かつてのアメリカでも結婚は認められていなかった。それが時代が変わり、さまざまな旅路の末に実現しました。そんなふうだから、結婚って何か、自分たちは何のために結婚するのか、長い時間をかけて考えている。ほんとに大事にすべきことは何か、考えてたどり着いている。

 そういう結婚式だったら出てもいいかな。というより、もし招かれたらほんとによろこんで出かけ、二人を祝福したい。
(2022年6月23日)