コロナの感染者が増え、医療崩壊が近いといわれます。
でも、まだだいじょうぶ。医療崩壊なんて起きない。そう思いたくなるのはアメリカの医療が惨状にもかかわらず持ちこたえているからです。
感染者の合計は、日本が23万7千人。アメリカはその百倍近い2000万人。
死亡者の合計は、日本が3千500人。アメリカはその百倍の34万人。
アメリカの人口は日本の3倍だから、当然日本より感染が多いとはいえ、百倍というのは想像を超えます。
日本でこの10か月間に死亡した人の総数にあたる犠牲者が、アメリカではわずか1日で発生している。
なぜこうなったのか。
トランプ大統領の失政は否定しようがないと大晦日のニューヨーク・タイムズは総括しています(‘Covid, Covid, Covid’: In Trump’s Final Chapter, a Failure to Rise to the Moment. The New York Times, Dec. 31, 2020)。

この記事で興味深かったのは、去年8月以降、トランプ政権の中枢に奇妙な医者がひとり入りこんだことでした。大統領はこの医者のいうことを聞き、マスクをきらい、ソーシャルディスタンスを呼びかけることもなく、コロナはもうすぐ終わるといいつづけてきた。
奇妙な医者とは、スタンフォード大学のスコット・アトラス博士です。
アトラス博士は、コロナ感染者、犠牲者の数は誇張されている、マスクに科学的な価値はない、子どもが感染を広げることはないなど、大多数の医者、科学者が目をむく非常識な説を唱えつづけてきました。大統領は彼のいうことだけを聞くようになり、側近にコロナの犠牲者は「1万人以下なんだ」というまでになったといいます。

ホワイトハウスにはそうそうたる科学者、医学者がそろっていた。けれど大統領は彼らを遠ざけ、去年8月、たまたま側近が探し出してきたアトラス博士というひとりの医者のいうことだけを聞くようになった。彼がすぐれていたからではなく、自分の「聞きたいことを話してくれる医者」だったから。
そしてアメリカは毎日3千人のコロナ犠牲者を出す国になった。
これをトランプ大統領の愚かさと笑うわけにはいきません。
「自分の聞きたいことだけを話す人」を重用するのは、トランプ大統領だけではないからです。選挙民もまた「自分の聞きたいことだけを話す政治家」を選んできたのではなかったでしょうか。アメリカでも日本でも。
なお、スタンフォード大学はアトラス博士を非難する決議を昨年11月に行ったそうです(https://www.hoover.org/profiles/scott-w-atlas)。
(2021年1月2日)