ここから世界を変える

 選挙結果に納得できない暴徒が議会に乱入。
 こんなことはバナナ・リパブリック、未開の部族社会でしか起きないとブッシュ元大統領がなげいたそうです。しかもそれを現職の大統領があおっていたとは。
 でもぼくはそういう派手な出来事より、おなじ日に起きたもうひとつの出来事に引きつけられました。
 南部のジョージア州で、二人の民主党上院議員が当選したことです。
 白人有権者が盤石を誇るジョージア州で、連邦議会上院の議席を民主党が独占するなんて夢にもありえないことでした。それが起きてしまった。

 誰もが認めるのは、そこにひとりの黒人女性がいたということです。
 彼女がいなければ今回のジョージア州の地殻変動は起きなかった、バイデンさんが当選することも、民主党が勝つこともなかったといわれます。
 ステイシー・エイブラムスさん、47歳。
 南部の、どこにでもいそうな、陽気であけっぴろげなおばちゃん。
 彼女がしてきたのは、できるだけ多くの有権者に投票させることでした。
 なぜなら州を支配している白人たちは、さまざまな手をつくして黒人や少数派の投票を阻んできたから。選挙区の区割りを白人候補有利に変更したり、有権者登録をきびしく制限したりわかりにくくするなど、その手口はじつに多岐にわたります。投票の権利はあっても、行使しない、できない有色人種、マイノリティが膨大な数に上りました。

 エイブラムスさんがしたのは、有権者登録をしよう、投票に行こうと呼びかけることでした。呼びかけるだけではなく、自らの足で家庭訪問をつづけ、有権者登録を手伝い、具体的な投票の仕方を教えることでした。おかげで新しく選挙に行くようになった人は80万人も増えたといいます。今回の勝利はそうした彼女の20年にわたる運動の結果でした。
 ニューヨーク・タイムズのインタビューに答えて、彼女はいっています。
「与えられた場所から、私は世界を変える。ジョージアは現実になる」
 白人だけでなく黒人もヒスパニックもアジア系もいる社会。強いものも弱いものも、富むものも貧しいものもいる。ジョージア州はそういう州になろうとしています。
( Why Stacey Abrams Is Confident Georgia Will Stay Blue. By Astead W. Herndon, Nov. 24, 2020. The New York Times )

 ぼくの兄は1960年代のジョージアに留学しました。そのころはまだトイレが白人と有色人種で別々だったといいます。そこからジョージアは長い道を歩みました。道はつづきます。けれどエイブラムスさんたちがいることで、ジョージアは「トランプ的なもの」と戦う力を身につけてゆくはずです。
(2021年1月7日)