人類はサルから進化した。
アメリカ人の半分は信じないけれど(進化論の否定)、ぼくらは小さいころからそう信じてきました。いまもそれを疑っていない。でもそこには危険な思いこみも混じっています。人類は生存競争を勝ち抜き、万物の頂点に立つ勝利者であるというような。
こういう思いあがりを、古生物学はひとつずつ切り崩しています。
そのひとつが、人類の「きょうだい」、ネアンデルタール人も人類とおなじように高度な精神文化を持っていたという理解でしょう(Neanderthal community cared for child with Down syndrome, fossil suggests. June 27, 2024. The Washington Post)。
今回明らかになったのは、ネアンデルタール人がダウン症の子を育てていた痕跡です。アルカラ大学のメルセデス・コンデバルベルデ博士が、スペインの洞窟で発見しました。
博士は発掘した6歳児の内耳の骨が、重度難聴のダウン症を示しているといいます。
「ネアンデルタールは高度の移動性があり、母親がひとりでダウン症児を育てるのはきわめてむずかしかったろう。先史時代にそういう子を6歳になるまで育てられのは、周囲の継続した支援があったからで、これは驚くべき事実だ」
ネアンデルタールは約50万年前に人類と共通の祖先から分岐し、ヨーロッパやアジアに移り住みました。4万年前に絶滅したけれど、それは「人類より野蛮で劣っていたため」という見方がありました。ことに2016年、一部遺跡でネアンデルタールが「共食い」していた痕跡が見つかったため、彼らは暴力的で共感力を欠いていたと見る人も出てきた。
しかしネアンデルタールに「障害児をケアするコミュニティが存在した」ことは、こうした見方をくつがえすとオーストラリア国立大学のソフィア・カロ博士はいいます。
「人類は特別な存在で、ネアンデルタールは“より人間性を欠いた”存在だという迷信は修正されるだろう」
何万年も前に生きていた人たちが、みんなでダウン症児のケアをしていた。ぼくはこれまで彼らを「未開の人びと」と見下す傾向があったけれど、反省します(ちなみに、日本でも縄文時代のポリオ(小児麻痺)の女性が、歩けないにもかかわらず20歳まで育てられた痕跡が北海道の入江貝塚遺跡で確認されています)。
ネアンデルタールは、おそらくぼくらとおなじような共感力、知能を持っていた。
だったらなぜ、ネアンデルタールは消滅したのだろう?
調べれば調べるほど、ネアンデルタールと人類の差はなくなります。なぜ絶滅したのかがわからない。ということは、人類もほんのわずかなことで絶滅に至る可能性があるんじゃないだろうか。人類、そんなに強くないかも。
古生物学は、ぼくらをすこし謙虚にしてくれます。
(2024年7月16日)