ウクライナの戦争がはじまってから、ロシアと中国は友好関係を強めている。けれどロシア情報機関は中国を信用せず、「敵」とみなしている。
ロシア情報機関の極秘文書からは、こんな事情がうかがえるとニューヨーク・タイムズが伝えています(Secret Russian Intelligence Document Shows Deep Suspicion of China. By Jacob Judah, Paul Sonne and Anton Troianovski. June 7, 2025. The New York Times)。
ロシアの諜報活動を担当する連邦保安庁、FSBの内部文書です。FSBのなかの、DKROとよばれる防諜部門で、中国のスパイ活動を監視する第7部が作成しました。ロシア国内での中国のスパイ活動をロシアがどう見ているか、全貌がはじめて詳細に把握できる8ページの極秘文書です。

(Credit: Alexander Polyakov, Openverse)
・・・中国のスパイはロシア国内に入りこんで一段と活発に活動している。
彼らはロシア軍がウクライナ軍とどう戦っているか、ドローンを使った戦闘やソフトウェアの使い方などに強い興味がある。台湾有事や南洋での軍事紛争が念頭におき、西側の武器がどのように使われているか知ろうとしている・・・
FSBは、こうした中国の諜報活動がロシアの科学者に接触し、高度な軍事機密を入手することを警戒している。
この文書は、FSBの幹部に対し、「中国情報機関が潜在的な敵であると表明することは避けるよう」と警告しています。表明を避けろというのは、内部では中国が「潜在的な敵」とみなされているということでしょう。

内容より興味深いのは、どうしてこんな極秘文書が出てきたかです。
タイムズによると、この文書はサイバー犯罪組織「アレス・リークス」が入手したものでした。アレス・リークスは入手先を明らかにしていないから真偽はわからない。けれどタイムズが西側6か国の情報機関に問い合わせたところ、すべてこれは本物という見解だったそうです。
おそらくFSBがハッキングされ、盗まれたのでしょう。アレス・リークスはそうして入手した各国の政府や情報機関の秘密文書をネット上で販売している。たとえばイランのスパイのリストなら3千ドル、というぐあいに。
ただしニューヨーク・タイムズは犯罪組織に金を払ってはいない。
アレス・リークスはタイムズに「無料サンプル」を提供したので、今回はそれを使ったということです。アレス・リークスにしてみれば、世界一の新聞に取り上げてもらい、宣伝効果抜群ということでしょう。
スパイの世界の裏では、じつにいろんなしくみが動いています。
(2025年6月9日)