3年前、カナダで謎の脳症、脳の病気が発生しているという報道がありました。
その後さしたる報道はなく、事態は沈静したと思っていました。ところが新しい報道によればそうではない。謎は謎のまま、さらに症例は増えている。いったい何が起きているのか疑問がふくらみます(They All Got Mysterious Brain Diseases. They’re Fighting to Learn Why. By Greg Donahue. Aug. 14, 2024. The New York Times)。
脳症、脳の神経が傷害されて起きる病気は、解明がきわめてむずかしい。40年前にイギリスで発生したBSE、牛海綿状脳症は当初狂牛病とも呼ばれ、感染メカニズムの解明には10年もかかっています。
カナダの謎の脳症は、カナダ北東部、ニューブランズウィック州で数年前から報告されています。専門家は当初、CJD(クロイツフェルト・ヤコブ病)という脳の病気を疑ったけれど、死亡者の剖検でそうではないとわかりました。
謎の脳症を報告してきたのは、神経科医のエイリア・マレロ博士です。
原因不明で進行性の神経疾患の患者が、4年間で20人もいたことに疑問を持ちました。患者は20代から80代、記憶や感覚、認知機能の障害が起き、短期間に悪化することが多い。保健省の研究機関に報告したところ、2021年にメディアが報道し、「ニューブランズウィックの謎の脳症」として知られるようになりました。
その後の経過は混迷にみちています。
状況からして、環境中の大気や水、土壌などに、脳に障害を起こすなんらかの毒性物質があるかもしれないと疑われた。連邦政府のもとで大規模な疫学調査が計画されました。
ところが、直後に調査は中止です。
脳症の解明が、連邦政府から州政府に移ったためでした。解明をめざす連邦政府に対し、州政府はもみ消しをはかったと患者家族団体は疑っている。ニューブランズウィック州の環境に何らかの問題があるとなれば、州の漁業、林業、観光には深刻な打撃があるからだと。
州政府はことし2月、「最終報告」を公表し、謎の脳症はじめから存在しなかったと結論しました。
すべてはマレロ医師の作り話たったのか? 記事を読むかぎり、ぼくにはとてもそうは思えません。マレロ医師はインタビューに応じてこんな意味のことをいっている。
・・・ニューブランズウィックはいまや世界でもっとも“若年発症性認知症”が集中した地域となった。この環境のなかでは何かおかしなことが起きている・・・
未確認をふくめ、患者の数は430人、うち111人が45歳以下だそうです。
脳症そのものより、脳症を取り巻く政治環境の方がより大きな謎に思えます。
(2024年8月21日)