コロラド州に5頭のオオカミが放されました。
やがて群れを作って定着するかもしれない。でもこころないハンターに殺されるかもしれない。新しい大地に放されて、彼らはしあわせなのか不幸なのか、心配です(Five Flying Wolves and One Tight Deadline: A Predator Returns to Colorado. Dec. 19, 2023. The New York Times)。
アメリカのオオカミは20世紀はじめまでにはほぼ殺しつくされ、絶滅しました。しかし1995年以来再導入の動きが進み、いまでは北部のワイオミング州やアイダホ州などに数千頭規模が繁殖していると見られています。
コロラド州の一部住民が、「あのすてきなオオカミを、自分たちの土地にもほしい」と運動し、住民投票にまでこぎつけたのは2020年のことでした。牧畜業者や保守派などの強い反対にもかかわらず、住民投票はわずかの差で可決された。その結果、オレゴン州で捕獲されたオオカミ5頭がコロラド州に空輸され、12月19日、州都デンバーの近郊にある州の原野に放されました。オオカミは来年以降も追加の個体が空輸され、放される予定です。
コロラド大学・動物人間政策センターのベッキー・ニーミック所長はいいます。
「オオカミって、公共の土地をどう使うかで、その人のアイデンティティに深く根ざした論争の象徴になるんです。オオカミにはみんなが、とても強い思い入れとかかわり方をしている」
牧畜業者の代表、フィリップ・アンダーソンさんはもっと率直なものの言い方をします。
「コロラドの人が選択をしたんだからしかたがないけど、農家はそんなこと望んじゃいない。天敵なんかいらない」
オオカミはきわめて行動範囲が広く、どこまで広がりどこで定着するかはわからない。家畜に害を及ぼしたり、住民の脅威になった場合には合法的に殺害されることもあります。かつてイエローストーン国立公園に再導入されたオオカミは順調に繁殖したけれど、コロラドのオオカミがどうなるかはわかりません。
ぼくのごく大ざっぱな知識からいうと、オオカミを守るのはリベラル、自然派。殺せというのは保守、金もうけ派。ヨーロッパはどちらかというと自然派が強いけれど、アメリカは鉄砲を撃ちたくてしかたがない保守派の方が多い。リベラル、保守が拮抗しているコロラド州でオオカミを再導入するのは、ちょっと政治情勢が変わればすぐ反転し、「オオカミ殺せ」の大合唱にになりかねないと不安です。
一番の問題は、アメリカにはオオカミについての基本的な合意、オオカミ基本法のようなものがないことでしょう。だから再導入の動きもあれば、殺せ殺せで息まいているところもある。これではオオカミもどうしたらいいかわからない。それにアメリカのオオカミには、トランプ大統領が再選されれば自分たちの受難は強まるという恐怖があります。
コロラドの“朗報”にもかかわらず、オオカミの受難はつづくとぼくは見ています。
(2023年12月20日)