デジタル世代の不幸

 スマホ依存の子は、自殺や自傷行為の危険が2倍から3倍高くなる。
 中毒といえるほどの使い方をすれば子どもの精神は病むと、信頼できる医学誌が伝えています。精神医療が専門のエレン・バリー記者が書きました(Real Risk to Youth Mental Health Is ‘Addictive Use,’ Not Screen Time Alone, Study Finds. By Ellen Barry. June 18, 2025. The New York Times)。

 この研究は、ウェイル・コーネル医学校助教のユニュ・シャオ博士らが行ったもので、JAMA、米医師会誌に掲載されました。
 シャオ博士らは、10歳ごろからスマホを使いだした子4285人について、14歳になった時点での使い方を調べています。その結果、子どもたちの31.3%はSNS、ソーシャルメディアの依存症的な使い方をするようになっていました。5.1%が自殺をはかったり準備したことがあり、17.9%が自殺したいと思ったことがあるといいます。

 興味深いのは、スマホが十代の子どもたちの精神を害するのは、使用時間の長さではなく、「依存的な使い方」だということです。
 依存症の子はスマホが手放せず、つねにもっとスマホを見なければと、強迫観念に似た思いに襲われている。これはスマホを見る時間が比較的少ない子にも現れます。依存症になった子は、ほかの子にくらべて自殺したいという思いが2倍から3倍高くなります。
「私たちの研究がはじめて明らかにしたのは、依存的な使い方こそがむしろ問題で、使用時間の長さだけではないということです」

 子どもたちのスマホやSNS、ソーシャルネットワークへの依存はこの10年、深刻な社会問題とされるようになりました。スクリーンタイム、スマホやタブレットを見る時間をいかに減らすかが議論されています。でもスクリーンタイムを減らすのはむずかしい。いったん使いはじめたスマホやSNSは、やめることができないからです。

 そこで出てきたのが、酒やタバコとおなじ年齢制限でした。
 乳幼児にはスマホを見せない。子どもが14歳から16歳になるまでスマホは持たせない、ソーシャルネットワークは使わせないという動きです。その先頭を切って、オーストラリアではことしから「SNSは16歳から」が法制化されます。アメリカのいくつかの州でも似た動きが進んでいます。

 生まれたときからスマホがある「デジタル・ネイティブ」は、新しい感覚で育つだろうというイメージがありました。けれどいま、彼らがしあわせかといえばぜんぜんそうではない。むしろスマホなどなかったアナログ世代の方がしあわせだった。この認識が、年齢制限への動きを強めています。
(2025年6月20日)