ペンギンのスフェンが亡くなりました。残念です。
ペンギンのなかでもジェンツーペンギンと呼ばれる種で、シドニー海洋生物館の人気者でした。先月、病気が重くなり、水族館スタッフがやむなく麻酔で安楽死させたそうです。12歳近くでした。欧米のメディアはこぞって訃報を伝えています。
一羽のペンギンがなぜこんなに注目されるのか。それは彼がゲイだからでした(A same-sex penguin pair captured hearts. After one died, the other sang. Aug. 22, 2024. The Washington Post)。
ゲイのペンギン?
そう、スフェンはオスで、もう一羽のマジックという名前のオスと仲のいい夫婦でした。しかもこの夫婦、ほかのオスメスのカップルが「見捨てた」卵を引き取り、2羽で力を合わせて孵化し、生まれた子を育てている。何度も。
ゲイ・ペンギンの子育ては、自然界でもあるそうです。またこれまでベルリンやオタワの動物園でも観察されました。いちばん有名なのはニューヨーク、セントラルパークのカップルでしょう。2羽のオスが協力して卵を孵化し、子育てをした話は、『タンタンタンゴはパパふたり』という絵本にもなっています。
ゲイのペンギンは、かねてから人間のゲイ・コミュニティでも話題でした。自然界にもゲイは存在する、だから人間にもゲイがいるのは自然なのだと。絵本『タンタンタンゴ・・・』も、あからさまにそう主張しているわけではないけれど、趣旨は明快でした(この本は、ブレイディみかこさんが自身の本のなかで紹介してたので、ぼくも楽しく読んだ記憶があります)。
スフェンとマジックのゲイ・カップルは、シドニーで行われる「マルディグラ・プライド」、LGBTQのパレードにも参加しています。本人が参加したのではなく、本人を模した大きな風船の形で。これはオーストラリアで、LGBTQを学校教育でとりあげようとしたのを保守派が攻撃したことへの対抗策でした。教員たちがゲイのペンギンを掲げ、「愛は多様な形をとる」とパレードしたのは、いわばペンギンの政治利用でした。
そんなふうに話題になり、有名になった(された)スフェンの死をたくさんの人が悼みました。
スフェンが亡くなったのを見たパートナーのマジックは、歌を歌いだしたそうです。それに全ペンギンが加わり、みんなで哀悼の歌を唱和したと、シドニー海洋生物館はいっています。ペンギンの歌とはどのようなものか想像がつかないけれど、そしてそれは歌というより鳴き声だったはずだけれど、周囲にいた心ある人たちは、それを「歌」と聞き取ったということでしょう。
(2024年8月23日)