カリフォルニアで、ホームレストランが広がっています。
個人が自宅で調理した食品を、近所の人が買って食べる「食の形」です。
テークアウトもイートインもある。いってみれば町内の誰かが多めに作ったチャーハンを、近所の人が金を払って買うイメージです。スーパーやデパ地下の惣菜が中食(なかしょく)なら、これは近所食(きんじょしょく)、近食(ちかしょく)でしょうか。
個人の台所がビジネスになる話です(Starting Nov. 1, people in L.A. County will be able to legally sell home-cooked meals. October 26, 2024. The New York Times)
ホームレストランの正式な名前はMEHKO(Microenterprise Home Kitchen Operation)、微小自宅調理事業です。
第1号は、リバーサイド郡にできた「カリ・タドカ」というインド料理屋でした。インド系のキミ・サングさんがここで2018年、サモサやティカ・マサラなどを売るようになった。けれど日本の保健所にあたる役所から違法だと警告され、一時閉店に追いこまれています。
その後あれこれあって、リバーサイド郡は翌年、MEHKO条例を可決、サングさんのような商売を認可しました。以来、リバーサイド郡はインド料理だけでなく、ベトナム料理、ソウルフードなどのMEHKO、ホームレストランが雨後の竹の子のように現れています。
日本にはこういう制度がないからイメージがつかみにくい。でもストリート・ベンダー、路上販売の変形と思えばわかりやすい。
軽トラックでホットドッグを売るような商売は、カリフォルニアでも厳しい規制があります。たとえば食材はすべて衛生設備の整った「商業調理施設」で用意しなければならない、など。でも路上ではなく自宅で販売するなら規制はずっとゆるやかです。レストランを開く資金のない人も、ホームレストラン、MEHKOなら実現できる。
ということで、MEHKOはいまやリバーサイド郡だけでなく、サンディエゴやサンタバーバラなど各地で認可され広がっています。今月からはロサンゼルス郡でも認可されることになりました。
ぼくらはすぐ、それで食中毒は起きないか、なんて心配してしまう。
もちろんそれなりの規制はある。たとえば1日に販売できるのは30食、販売場所は自宅にかぎり宅配業者のウーバーを使ってはならないなど。でもそこはアメリカ、心配するより起業精神を応援する文化がMEHKOを実現し支えている。
さらに重要なのは、こうした一連の動きを非営利団体が進めてきたことでしょう。MEHKOのもとには、低所得層であっても一定の支援があれば事業を起こせる、マイクロファイナンスの考えがあります。移民も貧困層も、ちょっとした助けがあれば夢を実現できる。そのようにして自分たちの社会を作りたいという思いがある。そこがこの話の肝心なところです。
(2024年11月1日)