下水の肥料

 知りませんでした。下水って、農作物の肥料にしているんですね。
 下水はし尿を含む廃棄物で、処理場でできる汚泥は捨てるものとばかり思っていました。ところが汚泥は栄養豊富な肥料でもある。下水汚泥は長年、肥料として農業に使われてきました。
 その汚泥に含まれる有害物質が、家畜や人間に深刻な害を与えているかもしれないという衝撃のレポートがあります。他人事ではありません(Something’s Poisoning America’s Land. Farmers Fear ‘Forever’ Chemicals. Aug. 31, 2024. The New York Times)。

 アメリカでは1970年代から、下水は処理場で処理するようになりました。そこで出る汚泥は埋め立てや焼却などで捨ててきましたが、リンや窒素などの栄養分を豊富に含むので、いまでは農業用肥料として活用されています。2018年には、乾燥重量で200万トンの汚泥が全農地の5分の1で使われたという推定もあります。

農地に使われる下水肥料
(Credit: Sustainable sanitation, Openverse)

 下水からできる肥料は、製造過程で病原菌や重金属が除去される。けれどこの過程ではPFAS(ピーファス)、「永遠の化学物質」とも呼ばれるフッ素化合物は除去されません。問題になっているのはこのPFASと、それに似た一群の化学物質です。
 PFASはハンバーガーの包装紙や“焦げつかない”フライパンのコーティング、建材や作業服など、日常生活の多くの場面で使われています。当初は無害とされていたけれど、いまでは肝臓を傷害し、がんや胎児の異常、子どもの発育障害などを引き起こすとも考えられている。このPFASが、汚泥肥料によって広範な農地を汚染しているのではないか。

 すでに具体的な被害も出ています。
 テキサス州のある農場では、死産した子牛を調べたところ、肝臓から61万pptという、信じがたい濃度のPFASが検出されました。
 ミシガン州では高濃度のPFAS汚染が見つかった農場が閉鎖され、メイン州では調査した100か所のうち86か所の農場で汚染が見つかりました。メイン州は、そのほか1千か所の農場を調査しないまま、汚泥肥料の使用を全州で禁止する措置をとりました。

 汚染や被害の報告は、氷山の一角です。
 ある関係者は、農地のPFAS調査は「パンドラの箱を開けるようなものだ」といっている。本格的に調べたら収拾がつかなくなるということでしょう。
 何十年にもわたって農場にまき散らされた「永遠の化学物質」が、永遠に人間の健康を脅かすのかもしれない。すでにそれは起きていることかもしれない。
 日本でも汚泥肥料の利用がはじまっています。いまは汚泥の1割程度を肥料にしているだけですが、輸入肥料が急騰していることから、もっと拡大したいと国土交通省はいっている。ここは十分慎重に進めてほしいものです。
(2024年9月3日)