不安の世代

 スマホが若者の精神に危機をもたらしている。
 社会心理学者の本が世界的なベストセラーになっています。
 16歳になるまでソーシャルメディアを使わせるな、など、過激な主張を唱えているけれど説得力がある。邦訳が待ち望まれます(‘No smartphones before 14; no social media until 16’: The Anxious Generation author on how to fight back against big tech. 7 Jun 2025. The Guardian.)。

 ニューヨーク大学の社会心理学者、ジョナサン・ハイト教授が書いたのは、アンクシャス・ジェネレーション(The Anxious Generation)という題の本です。「不安の世代」という意味で、44か国語に翻訳され、170万部のベストセラーになりました。

「The Anxious Generation」ジョナサン・ハイト著

 世界中の若者世代は、不安やうつ、自傷行為など、これまでにない精神的な危機を迎えている。これは精神保健への関心が強まり、診断範囲が広がったからではない。救急病院の記録を見れば若者の自殺が増えていることは確実だ。
 大きな要因はスマホであり、ソーシャルメディア、SNSだと教授はいいます。

 子どもたちに起きている「大規模な変容」への対策は、4つある。
1)スマホは14歳になるまで使わせない、2)SNSは16歳になるまで使わせない、3)学校からスマホをなくす、4)子どもの力を信じ、監視なしで遊ばせる。
 最初の3つは、多くの専門家が大なり小なり提唱していることです。4番目の、子どもを自分たちだけで自由に遊ばせるというのは、この問題に取り組むためのより根源的な対策という意味あいがあるのでしょう。

 ハイト教授が実現不可能とも思えるきびしいスマホ対策を訴えるのは、スマホがただの便利なツールではないからです。
「われわれは子どもたちに対して、現実の世界では保護過剰、ネットという架空の世界では保護過少だ」
 一方では守りすぎ、もう一方では守らなすぎの害がある。
 電話そのものがいけないのではない。だからガラケーはいい。SNSのような、営利企業の金もうけのしくみが、子どもたちを依存症にするのをやめさせようということだ。

 この本は、各国のスマホ規制に影響を与えています。
 オーストラリアが「16歳未満のSNS禁止」を法律で決めたのは、首相がこの本を読んだからだともいわれる。
「子どものスマホ」は、もはや禁止するかどうかではない。何をどこまで禁止するかが議論すべきテーマです。
(2025年6月11日)