豚の腎臓を人間に移植する初の手術が行われました。まだ実験段階ですが、もし豚の腎臓が人間への移植に使えるようになれば、重度の腎臓病に苦しむ人にとっては朗報でしょう(Patient With Transplanted Pig Kidney Leaves Hospital for Home. April 3, 2024. The New York Times)。
今回移植に使われたのは、人間に移植されても拒否反応を起こしにくいように遺伝子操作をほどこされた豚の腎臓です。
マサチューセッツ総合病院のレオナルド・リエラ医師らのチームは、こうしてできた豚の腎臓を重症の腎臓病患者、リチャード・スレイマンさん62歳に移植しました。移植された腎臓は期待どおり尿を作り、血液中の老廃物を取り除くなど、いまのところ正常な腎臓としての機能を発揮しています。手術から2週間後、スレイマンさんは笑顔で退院しました。
「こんなに健康な状態での退院を何年も願っていた。いま、願いは現実になっている。これは私だけでなく多くの人にとって新しい日々のはじまりだ」
スレイマンさんが臓器移植につきものの拒否反応を乗り越え、長期的に健康を維持できるかどうかはまだ予断を許しません。最初の1週間は「ローラーコースターだった」とリエラ医師は振り返り、その後も急性拒否反応が起き免疫抑制剤で乗り切ったときもありました。ただ拒否反応の出方は、人間の臓器を移植したときとおなじだったといいます。
手術後2週間の経過を見ると、豚の腎臓は人間が提供した腎臓を移植したときとおなじ経過をたどっている。この状態がつづき、ほかにも成功例が出れば、豚の腎臓は臨床応用が可能ということになるでしょう。
アメリカには腎臓病で人工透析を受けている人が55万人います。そのうち10万人が腎臓移植を待っているけれど、臓器の提供者はかぎられ、移植手術は年間2万5千例しか実施できていない。多くの患者が移植を受けずに亡くなっている。豚の腎臓が人間に移植できるようになれば、患者が救われるだけでなく、人工透析も減ります。1%の腎臓病患者が医療費の7%を使っているという現実も変わる。「豚の臓器」への期待は高い。
しかしハードルも高い。
遺伝子操作をした豚の臓器については、これまでに心臓を人間に移植する手術が2例行われていますが、患者はいずれも拒否反応で数週間後に亡くなりました。
今回使われた豚はこれまでとはちがう遺伝子操作が行われたようです。また使う臓器も心臓ではなく腎臓でした。それがこれまでのところは良好な結果をもたらしたのでしょうか。豚の臓器を人間に移植する医療はさまざまな挑戦がつづいてます。一進一退ではあるけれども、少しずつ前進しているという印象があります。
豚に感謝を。
(2024年4月5日)