厚い北壁のかなた

 北朝鮮の労働者が暴動を起こした?
 こんな情報は、嘘か無責任な放言じゃないかと疑います。
 でも中国に出稼ぎに行った北朝鮮労働者が奴隷のような酷使され、ついに暴動を起こしたと聞くと、なるほど、そういうことはあるかもしれないと思う。それがBBCのニュースなら、なおさら気になります。北朝鮮報道でBBCはもっとも一貫性があるからです(North Koreans working in China ‘exploited like slaves.’ Feb. 7, 2024. BBC)。

 ソウル駐在のジーン・マッケンジー記者が伝える情報は以下のようなものでした。
・・・中国で働いている北朝鮮労働者が、賃金不払いで暴動を起こしたという情報があった。彼らの賃金を、ピョンヤン(平壌)は兵器生産に使ってしまったらしい。情報は確認できないが、外貨不足で困窮する政府のために、国外にまで出稼ぎに行く労働者は困難な境遇におかれている・・・

(Credit: Roman Harak, Openverse)

 情報源のひとつは、亡命した元北朝鮮の外交官です。元外交官によれば、暴動が起きたのは中国北東部のいくつかの服飾工場で、1月11日、1年分の賃金が支払われないと知った労働者が騒ぎ出しました。
「彼らは縫製機械などを壊しはじめた。北朝鮮の監督を監禁したところもある」
 国外で働く北朝鮮労働者は推定10万人。ほとんどは中国北東部の工場や建設現場で、北朝鮮政府の監督のもとにおかれます。彼らは2017年から23年にかけ、北朝鮮のために7億4千万ドルもの貴重な外貨を稼いでいる。従来、賃金は帰国後に支払われたのに、今回は政府の金庫に入ってしまった。これは誰だって騒ぎます。

(Credit: Roman Harak, Openverse)

 韓国のシンクタンクによれば、騒ぎに加わった労働者は吉林省の15工場で2500人。これは北朝鮮人の“抗議行動”としては過去最大の規模です。BBCが接触した、中国にいる北朝鮮のIT技術者はいいました。
「労働者は奴隷のようだ。1日12時間から14時間の労働を週6日、日夜を問わず働かなければならない」
 コロナ以降、監視と監禁はますます厳しい。奴隷のように働いても賃金は独裁者が取りあげてしまう。

 ソウルにあるセジョン研究所の北朝鮮専門家、ピーター・ワードさんはいいます。
「この騒ぎは労働争議であって、反政府運動ではない。しかし北朝鮮政府は金がなく追い詰められ、文字どおり労働者の金を盗んでいるということだろう」
 暴動の情報がどこまで正しいかはわかりません。わかったからといって何もできない。けれど厚い壁の向こうにも、ひそかに声をあげたいと思っている人がいる。その声を、なんとかして聞きたいものです。
(2024年2月9日)