あと1か月たらずでアメリカの大統領選挙です。
大勢に変化はなく、大接戦のまま投票になるでしょう。1億5千万人が投票してもわずか数万票の差で勝敗が決まるかもしれない。結果をめぐっては暴動もありえる。
選挙の論点は多岐にわたるけれど、これはジェンダーの戦いなのだという新鮮な議論がありました(How Gender Became the Election’s Crucial Fault Line. By Emily Bazelon. Oct. 5, 2024. The New York Times)。
アメリカの大統領にはじめて女性が選ばれるかどうか、ではありません。
女性のハリス候補と男性のトランプ候補の、それぞれを支持する人びとのあいだに、ジェンダーをめぐる亀裂がパックリと開いている。どちらが勝っても、2024年の大統領選はジェンダーをめぐる歴史的な戦いだったと、後世の人びとは振り返るだろうという意味です。
論考を書いたエミリー・ベイズロン記者は、近年の大統領選挙はそれぞれの候補者の女性支持票に差が出て、それが拡大していると指摘します。
2004年の大統領選挙で、民主共和両党候補者の女性票の開きは7ポイントだった。それが2012年には10ポイント、2020年には12ポイントになっている。ことしはさらに広がると見られている。激戦州と見られるペンシルベニア州で9月に行われた世論調査によれば、ハリス候補に投票すると答えた女性は55%、トランプ候補は41%、女性票は14ポイントもハリス支持が多い。これはハリス候補が強いというより、女性有権者のあいだにトランプ候補への嫌悪感が強いからでしょう。
ハリス候補を無能だ、気がが狂っていると攻撃するトランプ候補。「子どものないみじめな猫女」とけなすバンス副大統領候補。しかしハリス候補はそうした挑発にとりあわず、冷静に、楽しそうに笑って選挙戦をつづけている。
スミス・カレッジのロレッタ・ロス教授はいいます。
「彼女が受け身でないのがうれしいですね。トランプはいつも人種差別や女性蔑視で相手をいらつかせるけど、ハリスはとりあわない。トランプはどうしたらいいかわからないんです」
著名なジェンダー研究者であるスーザン・ファルーディさんはいいます。
ハリスは秩序の候補者、トランプはカオス(混沌)の候補者だと。
「この選挙では女性性という象徴のもとに安定への思いが、男性性のもとにすべてを破り捨てたいという思いがある」
保健福祉、中絶の権利擁護、暮らしの安定を求めたいというハリス候補と、リベラルをたたきつぶして再びアメリカを偉大な国にするというトランプ候補。歴史的なジェンダーの戦いの内実は、安定とカオスの対決でもあるのですね。
(2024年10月8日)