工業的でない農業

 金もうけから楽しい農業へ。
 ごく一部だけれど、そういう人たちがいます。工業的農業から、人間的な農業に。あるいは自分が生きたいと思う人生に。実際に変わった農家の話が載っていました(Meet a Family That’s Betting the Farm on a Wild Idea. Literally. Aug. 14, 2024. The New York Times)

 取りあげられていたのは、アイオワ州のファーボルグさんの例です。
 溶接工だったファーボルグさんは、最初は小規模な兼業農家でした。1991年、借金で大規模な養豚に乗り出しています。畜産業者から子豚を引き受け、育てて出荷する下請け仕事でした。2200頭の子豚を6か月で出荷するサイクルのくり返し。家畜をベルトコンベアで作るような、工業的農業とか集約畜産と呼ばれるしくみです。
 その一部に組みこまれて30年、ファーボルグさんは疲れはてました。やめたいと思ったけれどローンが残っている。

豚の工業的飼育(資料映像)
(Credit: Farm Sanctuary, Openverse)

 途方にくれたところに、転機をもたらしたのは息子のテリーさんでした。
 大学を出たテリーさんは、温暖化や環境の問題に関心が強かった。両親の窮状を見て提案します。父さん、太陽光発電やったらいいんじゃないか。
 10町歩ほどの農地にパネルを立て、十分な電気を発電できた。ファーボルグさんは感動しました。電気代がなくなっただけじゃなく、電力会社から小遣いまでもらえるようになった。息子のいうことも聞かなきゃ。

 その息子が、また話を持ってきました。
 豚はやめて、新しい農業に変えよう。豚舎を改造しスペシャルな野菜を作ったらどうか。
 そのスペシャルな野菜が、キノコでした。
 それも健康食品や医療用にも使えるような、霊芝やヤマブシタケ、ヒラタケといった特別なタイプのキノコです。
 こんなアイデアを出したのは、息子のテリーさんがつながっていた非営利団体、TP(トランスフォーメーション計画)でした。TPは農家が工業的農業から抜け出すのを支援している。TPの「農業ソーシャルワーカー」が、ニューヨークのキノコ栽培専門家を紹介したこともあって、ファーボルグさんは工業的農業から抜け出すことができました。

 ファーボルグさんのような転身をとげるのは、ごく一部の農家です。大部分の農家は身動きがとれず、現状から抜け出せない。
 この話の要点は、工業的農業がいかに農家を追いつめているか、地域を衰退させているかです。効率を追求するだけでは見えないものが、この社会にはたくさんある。それが見えるようになるためには、誰にどう助けてもらえばいいのかということでしょうか。
(2024年8月30日)