遠回しの表現は「Rワード」でした。
「リターデッド Retarded」。日本語なら「知恵遅れ」「白痴」「精神薄弱」。知的障害者をさすこのことばは「禁句」とされ、せいぜい「Rワード」としかいわなかった。そのことば、白痴がアメリカで復活しています(The ‘R-Word’ Returns, Dismaying Those Who Fought to Oust It. Jan. 26, 2026. The New York Times)。
去年11月、トランプ大統領はSNSで、政敵であるミネソタ州のティム・ウォルズ知事を「ひどい白痴」とののしりました。司法省で障害者の権利擁護を担当するハーミート・ディロン局長も「白痴」を使っている。極右活動家のポッドキャストは「白痴ということばがもどってきた。文化戦争の勝利だ」と勢いづいています。

SNSの「X」(ツイッター)では、リターデッド、白痴ということばが2020年には1日2千回使われていた。それがいま、4万6千回になっている。トランプ大統領が使ってから一気に増えました。
積極的にこのことばを使う人は、言論の自由をとりもどしたといいます。「言論の自由戦士」を自称する極右活動家マーク・メックラーさんは、「禁止されてきたことばが英語にはいっぱいある。われわれは左翼からことばを取りもどしたのだ」と胸を張っている。
ミネソタ大学のエイミー・ヒューイット博士にとって、白痴の復活は2026年のアメリカ社会の分断を示しています。多くの人がこの社会には「無駄でじゃまな、足手まといなやつらがいる」とみるようになった。トランプ政権が多様性を敵視するようになってからの顕著な傾向です。多様性の敵視は人種だけでなく、障害にも及んでいるということでしょう。「自分たちか、あいつらか」です。

白痴ということばを使う人たちは、障害者本人のことではなく、人を形容するときの比喩だという。
けれど当事者は、そうはとらない。
自閉症で知的障害のあるニコル・ルブランさん(40歳)はいいます。白痴ということばが復活して日常的に使われるようになり、かつてのトラウマがよみがえった。
「それを聞くと、逃げ出し、隠れ、身体を丸めていたくなる」
白痴(リターデッド)の復活は、この世界が止めようもなく変わっていると感じさせるものがあります。いまはアメリカだけれど、じきにこの国もそうなるのではないか。
もしルブランさんたちが身体を丸めるなら、ぼくもまた身体を丸めてそのとなりにいたいと思います。
(2026年1月28日)
