微生物で牛を変える

 牛を変える研究が進んでいます。
 牛の胃のなかにいる微生物を遺伝子操作で変え、メタンガスを出さないようにする、そして地球温暖化を防ぐのだそうです。科学者って牛の胃袋の改造まで考えるのかと、ちょっとあきれました(Scientists may have found a radical solution for making your hamburger less bad for the planet. Aug. 25, 2024. The Washington Post)。

 牛は草を食べて消化し、エネルギーに変えます。
 このとき牛の胃のなかで草を分解するのは、膨大な数の微生物です。微生物の発酵作用が草を分解し、糖と脂肪酸にする。ところが、この過程で大量のメタンも出てしまう。牛はメタンを消化できないから、ゲップにして口から吐き出します。そうして出るメタンガスは牛1頭につき1年間に100キロ、平均的な車2台分もの量になります。
 この地球上には15億頭の牛がいるから、牛のゲップによるメタンは莫大な量になる。

 メタンは炭酸ガスにくらべ、温暖化を進める力が30倍から80倍も強い。温暖化の30%はメタンが原因とされ、いかにメタンを減らすかは緊急の課題です。
 これに、カリフォルニア大学デービス校のA・ケブリーブ教授らのグループが取り組みました。牛の胃のなかの微生物を変えようと。

 具体的にはふたつの方向があります。
 ひとつは、消化発酵の過程でメタンを出す、アーキアと呼ばれる微生物の働きを抑えること。
 もうひとつは、メタンを出さずに発酵を進めること。そのために、いまはデュオデニバチルスという細菌に注目している。この細菌を牛の胃のなかでどんどん増やせばいい。そうなるよう、遺伝子操作で繁殖力、発酵能力を数倍に強化した“スーパー・デュオデニバチルス”を作り、牛に投与する。
 道筋は明らかだけれど、実現は至難の技です。

 牛の胃は、何百万年もかけてここまで進化してきました。その進化によって、草をエネルギーに変える驚異の胃を獲得しました。どういうわけかアーキアという微生物と共生し、メタンを作りながら草を消化するようになった。精巧な進化の末にいまの牛がいるわけですが、そこに人間が介入しようとしている。
 そんなことして大丈夫だろうか。
 心配になるけれど、研究者に介入への危機感はないようです。むしろ畜産業界の方が、メタンで牛肉のイメージが低下することを心配しているかもしれません。根本的には牛肉の消費を減らせばいいのに、人類の大勢はまだそちらに向かおうとはしない。苦肉の策としての「牛の胃袋改造」計画でしょう。
(2024年8月29日)