文化大革命

 中国の文化大革命を覚えている人は、もうあまりいないでしょう。
 1960年代から70年代にかけて毛沢東が起こした内乱で、死亡者数百万人、迫害されたもの数千万人といわれる一大悲劇です。
 その文化大革命がアメリカで起きていると、中国人がからかっています(Many Chinese See a Cultural Revolution in America. March 6, 2025. The New York Times)。

 中国人は自国の指導者は批判できない。けれど外国の指導者なら批判できる。だからトランプ大統領に辛辣な批判がネット上にあふれています。
「かつてアメリカは、中国がアメリカのようになることを期待した。いまはアメリカの方が、ますます中国のようになっている」
 こんな投稿が、北京のアメリカ大使館が運営する「民主主義の光1776-2025」というサイトで見られるようになりました。

 支配者に平伏する官僚、メディアへの脅し、権力におもねる経済界のリーダー、自分は王だという支配者。こんなことは中国でしか起きないと思っていたのに、いまアメリカで起きているとジャーナリストのジャンジウさんはいいます。
「これは中国そのもの」
 ジウさんは2023年、中国からアメリカに移住した自分の境遇をふり返ります。
「フライパンから逃れ出たと思ったら、こんどは火のなかに飛びこんでいる」

 中国国内の投稿やジャーナリストのコメントは、アメリカで起きていることは文化大革命の再来で、イーロン・マスクは紅衛兵だと指摘する。
 紅衛兵。なつかしくも恐ろしい亡霊。
 毛沢東“反乱軍”の手先となって、中国の政治と社会を破壊しつくした暴力組織。造反有理という彼らの運動は、国を破壊し、反対者を処刑することに血道を上げた。おなじことをマスクがしている。死者が出ていないだけ、まだいいけれど。

文化大革命(農村学習の公式写真。この裏で数百万人が虐殺、処刑されたといわれる。Credit: manhhai, Openverse)

 北京大学の政治学教授は、皮肉をこめていいます。
「アメリカの“陰の国家”を倒す唯一の方法は文化大革命だ。文化大革命は真実や公正をもたらすものではなく、法の支配を吹き飛ばすことだ」
 中国市民からは、こんな投稿もありました。
「アメリカに毛沢東が生まれた。偉大なる指導者、トランプ主席よ永遠なれ!」
 文化大革命は、中国では闇にほうむられ全貌は解明されていない。けれど古い世代は、暴走した権力の恐怖を集団の記憶としてもっている。トランプ政権に、日本人より鋭敏に反応しています。
(2025年3月12日)