新型ソーシャルワーク

 緊急通報に、警察官ではなくソーシャルワーカーが対応する。
 そんな試みがアメリカ社会ではじまっています。
 日本でいえば110番、アメリカでは911番にかかる緊急通報は、もし精神障害者のトラブルなら、警察官よりソーシャルワーカーの方がうまく対処できる。そうした考えから、警察官ではない専門職が対応する「代替センターの対応」が進んでいるとか。斬新な取り組みです(A Revolution in Public Safety Is Underway. By Barry Friedman, Max Markham and Scarlet Neath. May 30, 2025. The New York Times)。

 ニューヨーク大学のバリー・フリードマン博士らが主導する試みです。
 フリードマン博士らは、緊急通報のすべてに警察官が対応すべきだとは考えない。精神障害者だけでなく、ホームレスの問題や児童虐待、近隣同士のトラブルや軽微な交通事故などは、警察官より訓練を受けた専門職が対応したほうがいいと考える。警察も業務が軽減され、犯罪捜査など本来の任務に集中できます。
 ほんとに緊急の通報は警察へ、そうでない通報は非警察官であるソーシャルワーカーやカウンセラーなどの専門職が作る「代替センター」へ。

 そういうしくみがすでに全米130か所で実施されているそうです。中身はそれぞれの地域に合わせた形で。
 ニューメキシコ州アルバカーキでは、訓練されたソーシャルワーカーや、ワーカーと同等の資格を持つスタッフがチームを組み、家庭内暴力やホームレス問題、薬物依存や近隣同士のトラブルに対応している。コロラド州デンバーには窃盗事件を扱う非警察官のチームがあり、ニューオーリーンズでは退職した元警察官が年間1万件の交通事故を処理している。

 もっとも進んでいるミネアポリスでは2023年、緊急通報の9%を代替センターで受けつけました。精神障害にかんする通報が多く、そのほかは交通事故やネズミの駆除などを求める通報だったそうです。市当局は10年以内に緊急通報の20%を代替センターで受けるようにしたいといっている。大胆だけれど実行可能な目標だと、フリードマン博士はいいます。

 たしかに、緊急通報のなかには緊急でないものがある。
 ミネアポリスが通報の20%を代替センターに回したいと考えるのは、おそらく20%以上が緊急ではないと見ているからでしょう。精神障害者の「逸脱行為」などは多くがその範疇に入るはずです。
 新しいソーシャルワークをどう進めるか。ワーカーがみな緊急通報に対処できるわけではない。そのための教育と、技術、経験が必要になります。課題はあるけれど、通報のすべてを警察が扱う時代ではなくなったということでしょう。
(2025年6月6日)