新薬コベンファイ

 統合失調症の新薬が承認されました。
 BMS社(ブリストル・マイヤーズ・スクイブ社)のコベンファイです。
 従来の統合失調症薬がいずれも脳の神経伝達物質、ドパミンに作用したのに対し、コベンファイははじめてアセチルコリンという別の神経伝達物質に作用する薬として登場しました。原理的に新しいということで、製薬業界では1952年に出たクロルプロマジン以来、70年ぶりの新薬と注目しています。

 コベンファイは9月26日、米FDA、食品医薬品局に承認されました。
 ワシントン・ポストは、統合失調症の治療現場を一変させる「革命的な新薬」と報道したけれど、ニューヨーク・タイムズは、統合失調症の治療がこれでどこまで変わるかはまだわからないと慎重です。ここは精神科の報道に複数の専門記者を抱えるタイムズの肩を持ちたい(F.D.A. Approves the First New Schizophrenia Drug in Decades. Sept. 26, 2024. The New York Times)。

 コベンファイは、1990年代にイーライリリー社がアルツハイマー病の精神症状に効く薬として開発したザノメリンという化合物がもとになっている。この化合物は副作用が問題だったので製品化はされませんでした。しかし20年後、MIT(マサチューセッツ工科大学)の化学者が調べ直し、ザノメリンにトロスピウム塩化物という化合物を加えれば副作用を抑えられることを突き止めました。そして製品化されたのがコベンファイです。
 コベンファイは脳内のアセチルコリンを調整し、統合失調症の治療に効果があることが治験でたしかめられたとBMS社はいっている。

 この知らせに、患者団体は希望をつないでいます。いままでの抗精神病薬は副作用がひどく、患者の60%から70%は1年半以内に薬から離脱するともいわれる。離脱しない患者も、ほとんどは幻覚や妄想などの症状が消えることはありません。
 コベンファイが精神症状を緩和し、副作用が少ないなら乗り換える患者は多いでしょう。

 しかし、とタイムズは釘をさします。
 コベンファイの治験はわずか5か月間しか行われていない。それで一部の患者に効果があったとされているけれど、「一部」はわずかなものでしかない。患者の多くは何年も薬を飲みつづけるだろうが、長期服用による副作用や、治験ではわからなかったマイナス面がみつかるかもしれない。
 BMS社はコベンファイ獲得のために2兆円近くを投資しています。それだけ利益を生むと見ているのでしょう。巨大製薬会社のそうした戦略がまかり通るのか、それともこれはほんとうに画期的な新薬なのか、もうしばらく現場を見なければなんともいえません。
(2024年10月4日)