無法の国

 アメリカは深刻な無法の時代を迎えている。
 トランプ大統領が、政敵に復讐するためにアメリカの司法組織を動員し、法は政治に左右されないという司法制度の根幹を破壊していると、ニューヨーク・タイムズが社説で非難しています(The Comey Indictment Plunges the Country Into a Grave New Period. By The Editorial Board. Sept. 26, 2025. The New York Times)。

 とにかく乱暴なやり口が目にあまる。それがさらにひどくなりました。
 トランプ大統領が、かつて自分を捜査した元FBI長官に復讐しようとやっきになっている。
 標的とされたジェームズ・コミー元FBI長官は、9年前の大統領選挙でトランプ候補の疑惑を捜査しました。これに遺恨を抱えた大統領は、元長官を起訴するよう連邦検察官に命令している。でも検察官は嫌疑不十分で起訴することができなかった。

ジェームズ・コミー元FBI長官

 するとトランプ大統領はこの検察官を罷免し、自分の側近をあとがまにすえています。後任の検察官はコミー元長官を、議会での偽証罪で時効となる寸前に強引に起訴しました。一連の動きは、検察官だけでなく司法省が全組織で進めているかのようです。

 政敵への復讐はこれがはじめてではないし、今後もつづくでしょう。すでに復讐リストには前CIA長官だとか、トランプ弾劾に動いた上院議員、リベラルな財団を主導するジョージ・ソロス氏などが含まれているとタイムズ紙はいいます。
「トランプ氏は、かねてから司法制度の重要な原則に干渉してきた。選挙では自分の政敵を裁判にかけると公約し、側近を司法長官や検察官に指名してきた。それ自体、この50年で最大の司法干渉にあたる」

 アメリカ司法省は1970年代のウォーターゲート事件以来、大統領からも与野党からも高度に独立した中立性を保ってきました。司法は政治ではなく、法のもとで動く。だから国民の信頼をえたし、国の基礎ともなった。もはやそうではない。
 17世紀フランスの帝王ルイ14世は「朕は国家なり」といい、王権は法に優越すると宣言しました。まさにおなじことが、この国で起きているとタイムズ紙はいいます。

 自由と人権の国はどこに行ってしまったのか。
 こんなふうになってしまった国で、リベラルな友人たちは天を仰いでいるでしょう。一方で、これがアメリカという国のもともとの本性だという人もいる。であるなら、こんな国とはもっと距離をおきたい。いますぐ日米同盟を破棄しろとはいわないけれど、「無法の国」よりは近隣の韓国、台湾との関係強化にもっと力を注ぐべきです。
 高齢化と少子化の小国が、トランプ時代の到来で変貌を迫られています。
(2025年9月29日)