スポーツ賭博は時限爆弾だ。
こんな投稿がニューヨーク・タイムズに載っています。近く爆発するという意味でしょう。大谷翔平選手の通訳、水原一平さんの事件もその一端です。スポーツ賭博は日本でも広がっているようだから、他人事ではありません(Sports Gambling Is a Ticking Time Bomb. By Leigh Steinberg. May 31, 2024. The New York Times)。
投稿したのはリー・スタインバーグさん、多くのプロスポーツ選手のエージェントを50年も努めてきた事情通です。
スポーツ界にはかつて数々の不祥事があったことを踏まえ、彼はいいます。
・・・私はスポーツ賭博をすべて禁止しろとはいわない。何百万人もがそれを楽しんでいるし、プロスポーツがはじまるずっと以前から人間はギャンブルをしてきたのだから。しかしリーグも選手も十分に考える余裕がないまま、スポーツ賭博は急速に広がっている・・・
2018年に最高裁判所の判決があって以来、スポーツ賭博は一気に広がりました。アメリカでは38州でスポーツ賭博が合法化され、スポーツ会場周辺には賭博の広告があふれ、掛け金を扱うブースが乱立している。スポーツと賭博の相互依存は深まるばかりで、このままではスポーツチームや選手がさまざまな不正にまきこまれると、スタインバーグさんは警告しています。
警告はスポーツ界内部に向けたものですが、一般社会にとっても重大な指摘があります。スポーツ賭博がネット上で増殖していることです。誰でもスマホがあれば24時間、いつでもどこでも、手軽に驚くほどの賭け金を賭けられる。賭博は、合法化よりネットに広がったことで、これまでよりはるかにひどい事態をもたらしている。
その犠牲者のひとりが、大谷翔平選手の通訳、水原一平さんだったとぼくは推測しています。
水原さんがなぜ大谷選手の口座から億単位の金をだまし取るまでになったのか、捜査当局が公表していないので詳細はわかりません。
でもぼくは、彼を「犠牲者」と呼ぶべきだろうと思います。
精神科から見れば、典型的なギャンブル依存症、つまり病気だったから。
彼自身も周囲の誰も、それを病気ととらえなかった。だから水原さんは病気の犠牲者であり、ギャンブル依存症を放置した社会の犠牲者でもある。「なんてバカなやつなんだ」と見ているかぎり、ことの本質は見えません。
だから北海道の浦河ひがし町診療所は、「水原一平氏を応援しよう」という公開講座を開きました。バカなやつだと見捨てるのではなく、いっしょにそこから抜け出そうと応援する。ギャンブル依存は、そういう形でしか対応できない深い病いです。ぼくらは理性や常識の向こうにある、人間のわけのわからなさを見つめなければなりません。
(2024年6月5日)