猫に謝るか

 アメリカの大統領選挙がおもしろくなってきました。
 勝てないバイデン大統領に替わって、勝てる(かもしれない)カマラ・ハリス副大統領が登場したからです。一時的かもしれないけれどハリス旋風が起き、ぼくのような野次馬にも楽しみになりました。
 旋風のなかで、いま話題なのが「猫女」でしょう(JD Vance is giving Republicans buyer’s remorse. July 27, 2024. The Washington Post)。

 猫女。キャット・レディ(cat lady)。
「猫と暮らしている、シングルのヘンな女」といった意味です。これをいったのは、共和党でトランプ候補とタッグを組んでいるJ・D・バンス副大統領候補でした。2021年の発言です。
「世の中には勝手気ままに暮らしている、子どものいないみじめな猫女がいっぱいいて、そういうのがこの国をみじめにしてるんだ」
 カマラ・ハリス副大統領の名前をあげてこういったから、バンス候補は「子どもを産まないハリスのような猫女は、ろくなやつじゃない」といったに等しい。

J・D・バンス副大統領候補
(Credit: Gage Skidmore, Openverse)

 完全にアウトです。
 バンス候補は、「あれは3年前の失言、悪かった」と謝ればよかった。ところがトランプ候補とおなじく、バンス候補も失言や誤りを撤回しない。26日にはこう反論しています。
「あれは皮肉としていったこと。猫に含むところは何もない」
 女性に対して悪かった、とはいわない。猫に悪かった、と謝ったようなものです。
 ハリスさんの支持者や民主党は湧いている。アホなバンスがさらにアホなことをいってる、当分、猫女で女性票を引きつけ、バンスを、トランプをたたくことができる。

ハリス候補のミーム(ネット上のシンボル)はココナッツ

 カマラ・ハリスさんに実子はいないけれど、結婚した相手には二人の子どもがいます。その子たちを母親として育ててきたので、猫女ではない。そもそもハリスさんにとって猫女はなんの問題でもなく、からかいの対象になりえない。
 でもアメリカの共和党保守派、トランプ派にとっては、自立した有能な女性であるカマラ・ハリスさんのような存在はとにかくがまんがならない。トランプ候補自身は直近の演説でハリスさんを「くず」(bum)とけなしている。今後もあらゆることばで、あらゆる手段で、人格攻撃をつづけるでしょう。

 そういう攻撃をはねのけ、戦う力がカマラ・ハリスさんにはあります。支持者は盛りあがり、陣営は熱気をおびている。「熱」が出てきたことで、11月の大統領選挙はこれまでよりずっと興味深くなってきました。
(2024年7月30日)