なぜ保守やトランプ派はワクチンを目の敵にするのか。
中心になっているのは「ワクチンを打つと自閉症になる」という迷信です。が、より根本にあるのは「こんなにたくさんワクチンを打つと子どもの免疫は壊れてしまう」という、いかにも大衆受けする俗論でした。そうか、そんなふうに思っちゃうんだ。ぼくはようやくナゾが解けた気分でした(Are Childhood Vaccines ‘Overloading’ the Immune System? No. Dec. 14, 2024. The New York Times)。
小さい子にこんなにたくさんワクチン打って大丈夫かというのは、親なら誰でも一度は心配し、気にかけることでしょう。
そこに、不安をあおる天才、トランプ次期大統領がつけこむ。彼は「ワクチンが自閉症の原因」を持論とするロバート・ケネディ氏と、7月にはこんな会話を交わしている。
「なあロバート、赤ん坊に38種ものワクチン打つんだろ、馬じゃなくて、5キロ10キロの赤ん坊にだよ。そんなことするから赤ん坊が突然変になっちゃうんだ」
変になるとは、自閉症になるという意味です。ケネディ氏は次期保健福祉長官として、この問題を本格的に調査するといっている。
アホらし。と、大部分の科学者は受け止める。
とっくのとうに決着のついている問題をなんでいまごろむし返すのか、愚の骨頂。
ケネディ氏はワクチンに含まれる水銀化合物が自閉症の原因などといっているが、いまのワクチンはほとんどそんなものを使っていない。自閉症との因果関係もない。数十年前にくらべてワクチンははるかに不純物がなく、安全で効果的になった。
ワクチン接種の多さが免疫に過剰な負担をかけているというのも、根本的なまちがいです。子どもの身体には常時何兆もの細菌がいて、そういう病原体が子どもの免疫を作っている。ワクチンは子どもが獲得する免疫の、ごくわずかな一部を作るに過ぎない。
科学者が証拠を示し、理をつくして反論しても世論は変わりません。
迷信や俗論がはびこる根底には、科学というより政治や行政、社会全般への不信がある。それを上手に利用する反科学的、反民主的な政治があります。
愚かだと笑うことはできない。日本だって保守トランプ的な空気は広がっているし、俗論が科学を否定する例はたくさんありますから。誰もが、ちょっとややこしいことはもう自分では考えない。ネット、スマホがあればことたりる時代です。
それをなげくのではなく、そこで生きていくにはどうすればいいかを考える。
自分で考えること。考えつづけること。考えない多数派になるよりは考える少数派でいたい。ぼくにとってはそれが心の平和です。
(2024年12月18日)