毎日、毎時間、苦痛で私の胸は締めつけられる。
こんな大統領が出現したせいで、と、コラムニストのマーガレット・レンクルさんが書いています(Feb. 10, The New York Times)。
トランプ政権は、温暖化対策のパリ協定やWHOからの離脱、高関税の乱発だけでなく、USAID(米国再開発庁)など、貧困や保健福祉の広範なプログラムや組織を「ぜーんぶ、やめろ!」と命令し、内外に大混乱を引き起こしています。
胸を痛めているのはレンクルさんだけではない。

変化の激しさは、トランプ大統領の激情というより、むしろ冷静な計算によるものでしょう。
もともとトランプ大統領は、大きくぶち上げて相手を脅し、交渉で実を取るのが得意でした。日本相手に著効を発揮したこのやり方は、2期目で磨きがかかっている。
一気に無数の新政策を打ち出し、反対派が身動き取れないようにする戦略はかなりうまくいっています。少なくともこれまでは。
混乱の渦中に、憲法の危機が浮上しています。
トランプ大統領令のなかには、明らかに憲法に反するものがある。司法は、アメリカ社会はどうするのか(Trump’s Actions Have Created a Constitutional Crisis, Scholars Say. Feb. 10, 2025. The New York Times)。

憲法違反は、少なくとも2つあります。
ひとつは出生地主義。合衆国憲法修正14条は、アメリカで生まれたものにはアメリカの市民権を与えるとしている。けれどトランプ大統領は「与えるな」と命令しました。
もうひとつは、USAIDのような政府支出による保健福祉を全廃するという命令。これらはもともと議会が承認した政策です。政府予算を決めるのは議会の権限であり、大統領令は立法権に真っ向から挑戦している。
こんなことは許されないと多数の訴訟が起きています。
すでにいくつもの裁判所で、大統領令は憲法違反という判断が出ている。けれど大統領側は全面的に戦うかまえで、バンス副大統領は「裁判官は大統領の合法的な権限を抑制できない」とまでいっている。司法への挑戦です。憲法なんてものはどうにでもなるというのでしょう。
学者は憲法違反だというけれど、現実の社会はそれを曲げるかもしれない。日本がそのいい例です。憲法違反のはずの軍事力をもち、一票の重みが違憲だのに選挙は合憲とされる。憲法をどう守るかは、最終的には司法の判断ではなく社会の選択です。
アメリカ社会の、憲法を守る戦いを見守りたい。
(2025年2月12日)