大統領選挙の場面転換

 バイデン大統領は、大統領選挙から離脱すべきだ。
 アメリカの有力メディアは先月末、そろってバイデン離脱論を打ち出しています。直前の6月27日、テレビ討論でバイデン大統領がトランプ候補と対決できず、立ち往生して無力感を強めたためです。民主党はパニックに陥り、バイデン撤退論が広がりました。

 ここでバイデンさんが、ごめんなさい、やめますといえば事態は収まる。けれどそれくらいでは民主党は立ち直れない。トランプ候補に勝てない。
 バイデン大統領が「絶対やめない」と言い張り、権力にしがみつく「老醜」を十分に見せたならば、またそこで、まるで場面転換のように若い新鮮な候補が登場したならば、有権者は新しい時代を求めてその候補に投票するだろう。
 民主党の“大統領メーカー”、ジェームス・カービルさんの提案する「勝利への工程」は、ぼくにそんな妄想を抱かせてくれました(James Carville: Biden Won’t Win. Democrats Need a Plan. Here’s One. July 8, 2024. The New York Times)。

 カービルさんは1992年のクリントン大統領、2008年のオバマ大統領を当選に導いた民主党の選挙立案者です。今回の選挙についてこういっています。
・・・バイデン氏は大統領選挙から身を引く。それは時間の問題だ。いまトランプ候補は、この選挙戦ではじめて、神に祈っている・・・
 バイデンには問題なく勝てる。でも民主党が若い斬新な候補を立てたらどうなるかわからない。民主党よ、どうかバイデンを捨てないでくれと、トランプ候補は祈っているはずだ。

・・・民主党はトランプとは正反対に、新しい候補を徹底的に民主的なプロセスで選ぶ。時間が迫っているから、最初はオバマ、クリントン両元大統領に新しい名前を8名あげてもらおう。そのなかから誰を最終的に選ぶか、タウンホール・ミーティングで話し合えばいい。8月の党大会までに全国の4か所で緊急のタウンホールを開き、決定する・・・
 その結果が、やはりカマラ・ハリス副大統領であってもかまわない。要は、民主的な討論と手続きを貫くこと、つまりトランプ路線の正反対を行くことです。そうすればアメリカの有権者は、新しい選択肢に、新しい時代に目を向けてくれる。

 カービルさんがいうのは、政治をどう動かすかより、有権者にどう向き合うかです。もし彼の提案が実現されれば、民主党はこんどの大統領選挙に勝つ可能性がある。そうでなければ死に体の選挙を戦うしかありません。
 民主党内のバイデンおろしは、まだ臨界点に達していない。そこで働いている古い政治力学こそが、有権者を遠ざけているというのに。
(2024年7月10日)