日本の精神科病院はきわめて評判が悪い(一部を除いて、ですが)。
患者の人権が無視され、異常な長期入院が多いなど、先進国のなかでは突出して悪評です。
しかしアメリカの精神科病院もかなり問題だと、ニューヨーク・タイムズの調査報道が告発しました(How a Leading Chain of Psychiatric Hospitals Traps Patients. By Jessica Silver-Greenberg and Katie Thomas. Sept. 1, 2024. The New York Times)。
報道されたのは「アケイディア・ヘルス」という、精神科病院の大手チェーンです。アメリカ全国で54の精神科病院と5900床のベッドを運営する、企業価値70億ドル、約1兆円の大企業です。20年たらずでここまで急激に伸びたのは、患者の「囲いこみ」をアグレッシブに進めてきたからでしょう。
いったん入院させたら、ときに違法な手段も使って退院させないというやり方です。
たとえばジョージア州の元公務員の女性は3年前、うつ病を疑ってアケイディアの病院を受診しました。ところが自分の意志に反して入院させられてしまった。6日後、夫が裁判所に退院命令を出してもらうまで退院できませんでした。
フロリダ州の患者は、双極性の治療を求めたら意に反し6日間も入院させられた。生命に危険があるなら強制入院も合法だけれど、危険などまったくないところで多くの患者が拘束されています。
ジョージア州の病院に警察が捜査で踏みこんだ際には、入院患者16人が「説明も正当な理由もなく」入院させられたと答えている。食事をちゃんと食べなかったというだけで退院できないこともあります。
背景には、入院が長びくほど病院がもうかるしくみがある。ある患者は1日の入院費用が2200ドル、6日間で約180万円でした。保険でカバーされるからいいけれど、アケイディアはあらゆる手段で保険期間いっぱいまで入院期間を引き延ばそうとする。
フロリダ州の病院は2019年からの4年間に、4500件もの「入院期間延長」を裁判所に申請しています。そのうち54件しか裁判所は入院延長を認めなかったけれど、いったん申請が出れば患者は退院できません。申請するだけで、病院は巨額の利益を手にする。
州や連邦政府の監査や捜査はあるけれど、摘発されるのはごく一部にすぎない。
精神科病院は、“閉じた収容施設”になるとどこでも闇を抱えます。
その闇を、タイムズの2人の記者が多数の患者、病院の元スタッフへのインタビュー、裁判所の記録などで明らかにしました。よくここまで取材したと感心する一方で、ここまで事実が出てくるのだから、また患者の人権を守る法律もときには機能しているのだから、アメリカの精神科は日本よりよほどましかと思ってしまいます。
(2024年9月18日)