やせ薬を依存症に

 やせるための薬を、依存症の治療にも使うべきだ。
“依存症ジャーナリスト”のマイア・サラヴィッツさんが提唱しています。
 やせ薬なんて、いかがわしいものと思っていたぼくは、調べて驚きました。きわめてまっとうな薬で、ほんとに依存症に使えるのかもしれない。これまで無視していたことを反省しています(The Breakthrough Drug to Conquer Addiction: Ozempic? By Maia Szalavitz. Oct. 18, 2024. The New York Times)。

「やせ薬」は、もともとは糖尿病の薬です。
 糖尿病の治療に使われるオゼンピックなどの新世代の薬は、GLP-1受容体作動薬とも呼ばれ、糖尿病患者の血糖値を下げるとともに、体重も減少させる効果がある。この効果をねらって、これらの薬がダイエットに使われるようになりました。

GLP-1受容体作動薬「オゼンピック」
(Credit: chemist4u, Openverse)

 糖尿病の薬をダイエットに使うのは、薬の使い方として問題となる場合があるし、副作用にも気をつけなければならない。でもそのへんの法的、医学的なややこしい話はちょっと脇に置いておきます。肝心なのはこれらGLP-1作動薬がダイエットに使えるだけでなく、麻薬などの薬物依存症治療も使えるという話です。

 依存症にくわしいマイア・サラヴィッツさんが、最近行われたふたつの研究を伝えました。
 ひとつは、麻薬などの薬物依存症者の記録を調べたところ、理由はなんであれGLP-1作動薬を服用していた人はそうでない人にくらべ、麻薬などを過剰服用するケースが40%少なかったそうです。もうひとつの調査では、麻薬依存症で、かつ糖尿病の人がGLP-1作動薬を投与されていた場合、その人は医療機関にかかる回数が40から70%少なかったといいます。
 これらの研究から、GLP-1作動薬を使っていると薬物依存が悪化しないと推測される。

 画期的なことだとサラヴィッツさんはいいます。
 なぜ糖尿病やダイエットに効果のある薬が、依存症にも効果があるのか。
 具体的なメカニズムはわからないけれど、GLP-1作動薬は食欲を抑える働きがあるので、食欲の抑制が同時に脳の薬物を求める回路にも作用しているのではないか。依存症者が薬物を「もっと欲しい」とのめりこむとき、その「もっと」を一定程度抑えることができるのかもしれない。

 GLP-1作動薬が、依存の根本に迫れるかも。
 国立薬物依存研究所の研究者らが、本格的な調査研究を計画しているようです。もちろんGLP-1作動薬を使えば依存が治るというような単純な話ではないでしょう。けれど依存にかかわる人びとにとって、GLP-1作動薬は有力なツールになる可能性がある。そうなってほしいとサラヴィッツさんはいっています。
(2024年10月22日)