炭鉱が閉鎖され、落ちぶれた町が福祉産業でよみがえった。
ケンタッキー州ルイザという町のルポを、期待をこめて読みました。そういう話があったら見習いたいものだと。
けれど長編の記事は、単純な成功物語ではありません。福祉っていったいなんだろうと考えてしまう。地域の複雑さ、依存症の闇と光、人間の業(ごう)。そんなものがないまぜになります(Opioids Ravaged a Kentucky Town. Then Rehab Became Its Business. By Oliver Whang. Dec. 11, 2024. The New York Times Magazine)。
ケンタッキー州の東部一帯は、人口あたりの麻薬依存症者が全国一です。
そのなかのルイザという町にやってきたのは、元アルコール依存症のティム・ロビンソンさんでした。麻薬依存症からの回復プログラムを運営する会社、ARCを設立します。
ARCは、閉鎖された炭鉱の建物や施設を手に入れ、回復センターや薬局、カフェやベーカリー、キリスト教系の私立学校や自動車修理工場に改造しました。回復センターで麻薬依存を抜け出した人びとは、商店や学校に就業し、社会復帰をめざします。
数年でARCは町一番の企業になりました。
ARCの成功は、回復センターだけでなく、回復した人びとが暮らし働く「地域」を作り出したことでしょう。企業組織だから可能だったかもしれない。
公的な補助金もありました。ケンタッキー州は2013年以来、依存症治療に補助金を出しており、連邦政府の分と合わせてARCの受けた補助金は年間1億3千万ドルになります。
1千人の従業員の半分を、依存症の回復者が占めるようになりました。
ここまでが空を飛ぶようないい話。ここから物語は地に降ります。
ARCに、FBIの捜査が入りました。詳細は不明だけれど、医療保険の過大請求があったとされる。公的補助が減額され、ARCは従業員の4分の1,300人を解雇しました。
地元民は興味津々で見守っています。ARCはやりすぎたかもしれない。でもARCが倒産すれば町も滅びる。町はすでにARCに依存しています。
ルイザの町で起きたことを不正といえるかどうかはわからない。やりすぎだったとしても、多くの麻薬依存者が社会復帰した事実は残るからです。それは「地域を作る福祉営利企業」のモデルになるかもしれない。
この話には別の層も重なっています。
依存症者の多くが再発をくり返すことです。救ったと思っても裏切られる。いい話の横にはいつも「どうしようもない」事態が並んでいる。安堵とため息の、終わりのない物語が永劫にくり返される。そういう背景のもとで、福祉の町の変貌はつづいています。
(2024年12月13日)