1万2千戸が焼失したカリフォルニアの山火事をめぐり、消防体制の見直しや住宅の規制、火災保険の高騰などさまざまな議論が起きています。
そのなかで目を引くのは、消防活動に刑務所から1千人もの服役囚が出動していたことでした。囚人を動員するほどの緊急事態だったのかと思ったら、そうではない。何年も前からの動きだそうです(‘Running to danger and saving lives’: 1,100 incarcerated firefighters are on the LA frontlines. 15 Jan 2025. The Guardian)。
カリフォルニア州消防局は、今回の大火で刑務所から出動している「服役消防士」は、1月15日時点で1116人といっています。かなりの数ですが、彼らが各地で一般の消防士のあいだにまじり、ともに消防活動にあたっている。
服役囚といっても、警備体制のゆるい刑務所で服役している人たちです。放火や性犯罪を犯したものは除外され、心身壮健で服役態度の良好なもののなかから希望者だけが選ばれ、訓練を受ける。いざというときには刑務所を出て消防活動に参加するしくみには何十年もの歴史があるといいます。
そんなことで囚人が逃げたりしないんだろうか。気になるけれど、そんなことはない。服役消防士のひとりはいいます。
「刑務所のなかで座ってるだけよりずっとマシだ」
命令があったら出動、消火活動が終わったら刑務所にもどる。刑務所内にいるよりずっとマシといっても、火事現場はきついと元服役消防士のラキシャ・ジョンソンさんはいいます。
「息するのもたいへんで、急いで動かなきゃならない。炉のなかにいるみたいで、それがどんなに危険か他人にはわからない」
アメリカでは14州に服役消防士の制度があり、カリフォルニア州でも何年もこの制度を使ってきました。山火事で出動する消防士は30%が服役囚になることもある。それで殉死した服役囚が何人もいました。
いまや服役消防士は消防の柱です。
ところが彼らの受け取る給料は月額50ドル程度にしかならない。ジョンソンさんは「はっきりいって奴隷みたいなもんだ。だけどそうするしかなかった」といいます。
服役消防士をもっと大事にしようという議論がカリフォルニアでは起きている。場合によっては犯罪歴を抹消し、出所後消防士として雇用する道も用意されました。彼らが消防士になるのを支援する非営利団体もあります。
受刑者を、ただ刑務所に閉じ込めておくだけでなく、社会に活かそうという視点が新鮮です。
(2025年1月17日)