デジタル・ドラッグ

 デジタル依存症について、精神科医のロング・インタビューがありました。
 スマホやパソコンのスクリーンを見つづけるデジタル依存は、重症だと精神科の治療対象になる。麻薬や覚醒剤による依存とおなじように、「デジタル・ドラッグ」による依存症と見るべきだといいます。
 デジタルは人間を楽にするとともに、追い詰めてもいる(Digital Drugs Have Us Hooked. Dr. Anna Lembke Sees a Way Out. Feb. 1, 2025. The New York Times)。

 インタビューに答えているのは、スタンフォード大学の精神科医、アンナ・レンブケ博士。『ドーパミン中毒』というベストセラーが日本でも翻訳されています。

アンナ・レンブケ博士
(Credit: fronteirasweb, Openverse)

 博士は、デジタル技術で情報やコミュニケーションがあふれ、ほしいものはなんでも即座に手に入るかのようになったけれど、そこには「過剰の逆説」があるといいます。
「便利になればなるほど、ものがあふれればあふれるほど、私たちはより孤独になり、より不安に、よりうつになっている」
 生産性の向上で余暇は増え、かぎりない快楽が目の前に並ぶようになりました。
「みんな金と時間をもてあまし・・・ショッピングや、ネットで他人が何かするのを見てすごすようになった。エネルギーと創造力を奪われている。いざ現実の社会を見れば、退屈で何も起こらず、誰もいないところになっている」

 そんなデジタル、やめなさいと博士はいいます。
 自分は2019年までスマホを持たなかった。医師という職業柄、いまはやむなく持っているが、デジタル・デバイスはできるだけ使わない。この冬休み、家族4人でヨセミテ国立公園に旅行したけれど、誰もデバイスを持たなかった。だからほんとに旅行を楽しんだ・・・。
 世の中はますますデバイスに依存している。対面はなくなり、人はどんどん孤立している。
「ネットでつながってるというけれど、いまじゃ相手はAIでしょ、生身の人間じゃない。なんとおそろしい」

 デジタルなしで過ごすというレンブケ博士は、潔癖なエリート主義かもしれない。大多数の人はまねできないでしょう。専門家のなかには、博士は依存を人間の脳や脳内物質ドパミン中心に説明し、単純化しすぎているという批判もあります。
 けれど博士のいう「過剰の逆説」には、うなずかざるをえない。
 ぼくが引かれたのは、そこから逃れるには「相互扶助の深い哲学的な議論が必要」と博士が口走った一言でした。インタビュアーは聞き流していたけれど、そこ、もうちょっと深堀りしてほしかった。どうやって相互扶助、哲学的議論を進めるのか。過剰の逆説を抜け出す道はそこにしかないでしょうから。
(2025年2月7日)