BBCの危機

 BBCが創立以来の危機を迎えています。
 会長と報道部門トップの2人が辞任しました。理由がトランプ大統領をめぐる報道と聞いて、ただごとではないと思いました。
 でもガーディアン紙の社説によると、別の見方があるらしい(The Guardian view on the BBC under siege: Britain must defend its own truth. Editorial. 10 Nov 2025. The Gurardian)。

 辞任したのはBBCのティム・デイヴィー会長と、ニュース部門トップのデボラ・ターネス最高経営責任者です。辞任の理由はBBCドキュメンタリー「パノラマ」の報道内容でした。
 4年前の2021年1月6日、選挙で敗れたトランプ大統領は、ホワイトハウス前で支持者の群衆に演説しています。興奮した群衆が議会を襲い、米憲政史上最悪の議会襲撃事件となった。BBCはこのとき、トランプ演説を意図的な編集でゆがめたとされる。

辞任したデイヴィー会長とターネス責任者(BBC日本語サイトから)

 トランプ大統領が「われわれは議会に行こう、そして上院議員や下院議員を励まそう」と訴えた部分を、その50分後にしゃべった「われわれは戦う、徹底的に」ということばとつなぎ合わせている。
 議会に行って共和党の議員たちを励まそうといったのが、「みんなで議会に行って戦おう」になった。あたかも直接扇動をあおったかのように。

 どういうわけか、この「編集」が4年後に問題になりました。
 ことし1月と5月に開かれた内部委員会で審議され、会長と報道部門の責任者が引責辞任することになった。それと前後して、トランプ大統領が名誉毀損などで1500億円の賠償を求める訴訟を起こすといっている。

BBCテレビ・センター(Credit: Panhard, Openverse)

 BBC内部の権力抗争ともいわれるけれど、問題の根はもっと深い。
 どんな報道機関もまちがいはある。まちがいはすみやかに直して対処すればいい。今回の「編集」もそうだとガーディアン紙はいいます。ではなぜ会長が辞任するまでになったのか。
 BBCには長年、保守右派から圧力がかかっている。
 公共放送ではあるけれど、BBCは世界でもっとも信頼される報道機関のひとつとです。そのリベラルな面をつぶし、BBCをアメリカのテレビのように商業化すべきだとする動きが強まっている。「真実を伝える」より「感情をあおる」ことで、「金もうけ」できるメディアになれというのでしょう。
 そうなってはならない、BBCを守るべきだとガーディアン紙はいいます。多くのイギリス人がBBCを「丘の上の光」といっているのだから。
 ガーディアン紙がそういうなら、引きつづきBBCを応援したい気になります。
(2025年11月12日)