前回、ベネズエラのマチャドさんがノーベル平和賞を受賞したことを「まずはよろこびましょう」と書きました。
でもマチャドさんには厳しい批判もある。ノーベル平和賞は政治賞でもあり、複眼的に見なければならないと気づきます(At least three authors withdraw from Hay festival in protest at Machado invite. 16 Dec 2025. The Guardian)。
ガーディアンが記事にしたのは、「ヘイ・フェスティバル」という文学祭の亀裂でした。
来月、コロンビアのカルタヘナで開かれるこの文学の祭典は、平和賞受賞者のマリア・コリナ・マチャドさんをゲストに招待しています。これに抗議する中南米の作家が3人、ボイコットを表明しました。
マチャドさんが、トランプ大統領のベネズエラに対する軍事行動を支持しているからです。

(Credit: SantanaZ, Openverse)
トランプ大統領はベネズエラの軍事独裁者、マデュロ大統領の転覆をめざしている。ベネズエラ近海で「麻薬密輸船」への爆撃をくり返し、すでに100人近くを殺害するなど、国際法違反といわれる傍若無人なふるまいをつづけています。マデュロ政権を倒すために、直接の軍事行動もちらつかせている。
そのトランプ大統領を、マチャドさんは「断固支持する」といった。軍事独裁政権を倒すためにはもう米軍の軍事力に頼るしかないというのでしょう。
それはいかんと、文学者たちが声をあげた。
文学祭のボイコットを表明したのは3人で、そのひとり、コロンビアの作家ラウラ・レストレポさんはいいます。
「国の主権や人民否定の行動を容認するマチャドのような人には、いかなる発言の場も与えるべきではない」

(Credit: BhaduriAbhijit, Openverse)
ガーディアン紙によれば、マチャドさんはアルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領やチリの次期大統領に当選したホセ・アントニオ・カスト氏ら、極右とされる政治家と密接なつながりがある。こうした政治的な動きが、中南米で彼女の平和賞受賞をだれもがよろこべない背景になっているのでしょう。
悪を倒すために暴力を使うなら、別の悪になる。
そういってマチャドさんを批判するのはかんたんだけれど、ではベネズエラの独裁政権を認めるのかといえば、そんなわけにもいかない。
ここには深い葛藤があります。
葛藤を受けとめるのは、政治家ではなく文学者でしょう。彼らのいうことに耳を傾けたい。そのうえで、マチャドさんと平和賞をより複雑に見直したいと思います。
(2025年12月19日)
