伝統競技の消滅

 アメリカ北部、カナダと国境を接するアイダホ州で、伝統の犬ぞりレースが消えることになりました。雪が少ないので。温暖化の影響は犬ぞりレースにまで及んでいます(The Latest Victim of a Snowless West: Dog Sledding. Feb. 9, 2026. The New York Times)。

犬ぞりレース(資料映像)

 消えるのは「アイダホ・犬ぞりチャレンジ」という競技大会です。
 アイダホの州都、ボーズの北約100キロのロッキー山脈のふもとで、全長480キロ、上り下り高低差合計が1万2千メートルにもなる過酷なコースを犬ぞりで走破する。ところが2024年以来、雪がなく犬ぞりが走れない部分ができたり、気温が上がって雪崩の危険もあることなどから大会は中止されています。
 ことしこそと期待したけれど、やっぱり雪がない。3年つづきの中止で、大会そのものがなくなるそうです。

 30年にわたり犬ぞりレースにかかわってきた審判員のリック・ケイタキーさんは、こうなると予想していました。雪がないだけでなく、干ばつや大雨がくり返され、天候の予測ができない。コースの一部は山火事で破壊されている。すべて温暖化のせいです。

「アイダホ・犬ぞりチャレンジ」は、じつはアラスカで開催される世界最長(1800キロ)の犬ぞりレース「アイディタロッド大会」の前哨戦でもあった。アイダホのレースで勝てば、犬ぞりレースの最高峰に挑戦できたのです。
 ところが、アラスカのレースも温暖化に揺れている。気温上昇でコースの一部が荒れているからです。そりをひく「ソリ犬」は零下18度以下がいいとされるけれど、3月の大会期間中はそれ以上になることがある。コースを短縮するか、もっと寒い時期に開催するか検討しているそうです。

 ぼくはアメリカに滞在したときに犬ぞりレースを知り、ずっとあこがれていました。一度乗ってみたい、見てみたい。
 その元には、南極で活躍した樺太犬、タロとジロがいます。
 1957年、日本の南極観測隊が南極に連れていった樺太犬のうち、奇跡的に生き残った2頭です。そのすばらしい力を引き出したのはアイヌ民族だったと、後年になって知りました。アイヌとともに生きた樺太犬はいまは絶滅したというけれど、仲間がシベリアやアラスカにいます。彼らは何千年にもわたって先住民のソリをひき、暮らしを支えてきました。
 牛や馬が生存できない過酷な北極圏でも生きのびるソリ犬。
 ペットではない、また観光の一部ではない彼らの姿を、レースで見てみたい。
 うかうかしていると、じきにそういう姿は見られなくなります。
(2026年2月11日)