スキャンダルの消滅

 スキャンダルが無視される時代になりました。
 政治家のスキャンダルはかつて騒がれたけれど、もうそうではない。スキャンダルというものを人は気にしなくなった。どの国でも。
 価値観に、何か大きな変化が起きているのでしょうか(Why Scandals Don’t Bring Down Politicians Anymore. By Amanda Taub. Sept. 14, 2026. The New York Times)。

 アメリカでは、議会下院の共和党、マックス・ミラー議員が妻と子に暴力を振るったと非難されている。けれど再選を目指して運動中です。テキサス州から上院に立候補している共和党のケン・パクストン候補は、収賄などで起訴されたけれど選挙運動をやめていない。メイン州で上院に立候補した民主党のグラハム・プラトナー候補は、元ガールフレンドからレイプされたと訴えられました。
 プラトナー候補は選挙戦から撤退したけれど、あとのふたりは何もなかったかのように選挙運動をつづけている。支持者が離れたようにはみえません。

 政治家が恥の意識を失ったとするなら、その最たるものはトランプ大統領でしょう。スキャンダルで過去2回、有罪判決を受けている。大統領の地位を利用し数千億円も私腹を肥やしているというのに、支持者はそんなことをまったく気にしない。
 ヒューストン大学の政治学者、ブランドン・ロッティングハウス教授は、スキャンダルをめぐる政治はまったくちがうものになったといいます。
「政治家が辞任せずいまの地位にいられるのは、両極化が進んだからだ」

 社会の分断が、スキャンダルをおおい隠している。
 多くの調査であきらかなのは、特定の政党を支持する人は、その政党のイデオロギーや文化を自分のアイデンティティにするだけでなく、着るものから食べるものまで生活全般をそれに合わせていく。敵対陣営に強い敵愾心を燃やすようになる。
 自分たちの政治家を見捨てるのが敵を利することになるなら、スキャンダルなど気にしません。そんなのは敵の陰謀であり、魔女狩りだとしてしまう。

 なるほど。
 社会の分断が深まれば、政治スキャンダルは後退する。それはアメリカだけでなく、日本もふくめた多くの現代社会に共通する現象です。
 けれど民主主義の否定でもある。スキャンダルの容認は、政治家が説明責任をはたさないことになるからです。説明のない政治は、それだけで全体主義になる。
 スキャンダルに慣れてはいけない。
 いけないけれど、ではどうすればいいか、立ち止まってしまいます。
(2026年9月28日)