マスクイズム

 アメリカの中間選挙が目前に迫りました。
 ニュースのなかで何度か目にしたのが「4億5千万ドル」という数字です。日本円で約700億円。
 世界一の富豪イーロン・マスク氏が、この選挙で共和党につぎこんだ資金です。桁外れなポケットマネーで何をしようとしているのか(Elon Musk’s Endgame. Oct. 30, 2026. “The Ezra Klein Show” The New York Times)。

 ボストン大学のマスク研究者、クィン・スロボディアン教授がポッドキャストでのべたことをもとに、ぼくが勝手にまとめればこうなります。
「彼はアメリカの政治を、さらには世界経済までも、自分に依存させようとしている。巨額の資産と独占的な衛星通信システムなどを基盤に、政治経済だけでなく軍事戦略にも影響力を行使する。この世界を、自分の意向にそった姿に変えたいと思っている」

イーロン・マスク氏(2015年、Credit: jurvetson, Openverse)

 マスク氏が共和党に法外な金をつぎこんだのは、「自由」のためとされる。
 もしも民主党が議会の多数派になったら、衛星通信もAIも規制だらけで自由なビジネスができなくなる。自分は自由の国でやりたい放題にしたい。そのために共和党にテコ入れする。選挙だけでなく、もっともっとこの世の中を変えていきたい。
 マスク氏はそう思っているのでしょう。

 スロボディアン教授は、これを「マスクイズム」という概念でとらえている。
 マスクイズムには極右思想が入りこんでいるけれど、ぼくにはそれが「純粋な社会」への志向に思えます。清く正しく、単純明快な世の中。
 たとえば移民。マスクイズムは移民が西欧と異なる宗教や文化をもちこみ、西欧文明を「汚染する」と考える。リベラル派なんて、「ウォーク」(行きすぎた理念)ウィルスに汚染されているだけだ。そういう汚染はすべて除去し、きれいな社会にしたい。

アメリカ議会

 マスク氏は現代政治の考え方を受け入れないと、スロボディアン教授はいいます。
 この250年の民主主義は、人はみな仲間であり平等だという考え方のもとに発展してきました。いわば共感ともいえる概念のもとに、合意と妥協を積み重ねてできたしくみです。そのしくみがマスク氏には、また極右にとっては、がまんならないものになっている。

 700億円の献金の裏には、そういうねじれた怨念のようなものがあるのですね。
 もしこんどの選挙で共和党が勝つか、あるいは予想外に善戦したら、最大の貢献者はトランプ大統領ではなくマスク氏になるだろうといわれている。
 それが現実の脅威になっているのが、ぼくらがいまいる世界です。
(2026年11月2日)