強まる米台間の波風

 これは危険な兆候だとぼくも思います。
 台湾の人びとがアメリカへの信頼を失っている。中国が攻めこんできても、アメリカが台湾を守ってくれると大部分の台湾人は思わなくなった。じゃあ自力で防衛できるのかといったら、そんなことはありえない。
 とすると?
 中国は労せずして台湾を手に入れる。そのシナリオが、ここに来てわずかではあるけれど現実味を帯びたのではないでしょうか(Taiwan’s Doubts About America Are Growing. That Could Be Dangerous. Jan. 20, 2024. The New York Times)。

 台湾のシンクタンク、IEAS(中央研究院欧米研究所)などが去年9月に行った世論調査によると、アメリカを信頼できる国と答える台湾人は34%、信頼できない国と答えた人は55%でした。
 信頼できると答えた人の割合は、2年前の2021年にくらべて11ポイント低下しています。つまり台湾人の過半数がアメリカは信頼できないと思い、しかもその割合は顕著に増えている。
 中国専門家であるスタンフォード大学のオリアナ・S・マストロ教授はいいます。
「これが重要なのは、台湾がどこまで持つかはアメリカへの信頼に左右されるからです」

 いったん中国軍が攻めこんできたら、台湾軍がどこまで持ちこたえるかは「アメリカが助けに来る」と信じられるかどうかです。信じられなければ、かんたんに中国軍に制圧されてしまう。
 台湾が一定期間抗戦できれば、その間にアメリカが駆けつける。それがいま一般に語られている台湾防衛の筋書きです。その「一定期間」は、アメリカへの信頼に左右される。
 すべての大前提である、アメリカへの信頼が揺らいでいます。

 無理もありません。台湾はすでにいっぺんアメリカに見捨てられている。
 1979年、米中関係の樹立とともに台湾は見捨てられ、孤立無援の島になりました。アメリカはアフガニスタンも見捨て、ウクライナにも派兵はしなかった。台湾を守ってくれる保証はどこにもない。おまけに次期大統領をねらうトランプ候補は「アメリカ・ファースト」、台湾なんかどうでもいいのではないか。
 アメリカは台湾を守らないと大部分の台湾人は思うようになった。またアメリカ人も、台湾への米軍介入には反対している。

 台北にある東呉大学のシンシンパン准教授はいいます。
「自らの運命を自から決められないという焦燥が、台湾人のアイデンティティのより大きな部分を占めている」
 アジア・ナンバーワンの民主主義は、自由で民主的であるがゆえに焦燥を深めないわけにはいかないのでしょう。
(2023年1月24日)