アライグマの距離

 アライグマは、ヨーロッパでは別の動物じゃないのか。
 思わずそんなことを考えてしまいます。日本ではネズミやゴキブリなみの悪者ときらわれているアライグマを、ヨーロッパの住民はかわいがったり、エサをやったりしている。おなじ動物の見方がどうしてこんなにちがうのでしょうか(Rampaging raccoons: how the American mammals took over a German city – and are heading across Europe. 19 Jun 2025. The Guardian)。

 ガーディアン紙は、ドイツ中部のカッセルという町の住民の話を伝えています。
「ここはアライグマの町、どこにでもいる。暗くなると出てきて庭に現れ、かごのバナナをとっていったりする。あいつらは天敵がいないから傍若無人。かわいいけど憎らしいときもある」
 アライグマをなでる人も、エサをやる人もいる。地元スポーツチームもアライグマを名乗るなど、住民の多くは好意的に見ています。

 けれど、旺盛な繁殖力としぶとい生活力で、アライグマがゴミ箱をあさったり、営巣中の野鳥を襲うなど、住民の暮らしやほかの生物種への害も増えてきた。数が少ないうちは「かわいい野生動物」だったけれど、「有害な困りもの」になりつつある。
 ドイツには160万匹のアライグマがいるけれど、去年は20万匹が捕獲され、殺処分になりました。より厳しい駆除対策が必要かもしれない。

 北海道によく行くぼくは、アライグマのいい話を聞いたことがありません。農作物の害は深刻で、農家は自治体の供給するワナでアライグマの駆除に努めている。困ったやつらだ、ぜんぶいなくなってほしいという話ばかり。

 そういう話を聞いていたから、ヨーロッパでアライグマを「かわいい」と見る人が意外でした。
 でも、駆除すべきだというのは、外国人や移民に対し右翼が抱く思いこみとおなじではないか。トランプがやっきになって進める移民「駆除」とおなじではないか。
 日本のアライグマは、ペットが捨てられて野生化したといわれます。ドイツのアライグマも、もとは「毛皮動物」として北米から輸入されたものでした。アライグマに責任はない。それを駆除すべきだと思いこんでいたぼくも、やはり右翼だったということでしょう。

 ネズミ、ゴキブリへの嫌悪とおなじものが、アライグマへ、移民へと向いてはいないか。
 駆除すべきだというぼくらの思いこみも、おそらくおなじところから出ている。野生動物と移民はちがうけれど、アライグマも移民も、どちらも身の上に思いをはせるべき存在であることにかわりはありません。
(2025年7月18日)