クマと賢く共存する

 ペットラーノ・スル・ジーツィオ村。
 イタリアの中南部、アペニン山脈の奥深くにあるこの村は、中世の面影が残るイタリアでもっとも美しい村のひとつといわれます(冒頭の写真。Credit: gianfranco.vitolo, Openverse)。
 ぜひ行ってみたい観光スポットです。でもこの村、いまは観光より自然保護で有名です。イタリアで最初の「ベア・スマート・コミュニティ」、クマと賢く共存する村になったので(‘We made everything bear-proof’: the Italian village that learned to love its bears. 7 Apr 2025. The Guardian)。

 ペットラーノ村は長年、クマの被害に悩まされていました。アペニン・ブラウン・ベアというクマが村に入って鶏小屋を襲ったり、ミツバチや果樹園を荒らしまわったからです。
 2014年には、村人が鶏小屋を襲ったクマ1頭を射殺する事件も起きています。けれどその後、クマとどう共存するかの論議がはじまり、村は「ベア・スマート・コミュニティ」への道を歩むことになりました。

ペットラーノ・スル・ジーツィオ村
(Credit: gianfranco.vitolo, Openverse)

 まず行ったのが、村中の鶏小屋やミツバチの巣、果樹園など100か所に電気防護柵を設置することです。あわせて果樹園の熟した果物はすぐ収穫すること、ゴミ容器はクマが開けられないよう丈夫なものに変えることや、食べ残しは屋外に放置せず、ゴミ収集日まで家のなかに置くことなどのクマ対策を徹底しました。クマと共存するための解説書が、環境団体の助けで村の全員と近隣の村にも配られています。
 効果はてきめんで、クマによる被害は2014年から17年にかけて99%も減りました。クマは、村に行っても何も食べ物にはありつけないと学習したのでしょう。2020年以降のクマの被害はゼロになっています。

アペニン・ブラウン・ベア
(Credit: Marco Tersigni, Openverse)

 ペットラーノ村は過疎と高齢化が進んでいました。1920年には5千人いた住民は390人にまで減っています。けれど「クマと共存する村」になったことで観光客や環境活動家がおおぜいやってくるようになりました。2020年には250人だった訪問者が、去年は2400人にまで増えています。環境保護に熱心な人たちのために、村のレストランはヴィーガン食を出すまでになりました。
 移住者する人もいます。そのひとりで、食料品店を開いたデルシニョーレさんはいいます。
「観光だけじゃないんです、ここにあるのは。住めばいい暮らしができる、そう思えるところなんですね」

 アペニン・ブラウン・ベアはおとなしいクマなので、人身被害はありません。日本のクマと単純な比較はできないけれど、ベア・スマート・コミュニティは魅力的です。どうすれば日本でもそれに近いものができるでしょうか。
(2025年4月11日)