クマが出たらどうするか。
北海道浦河町に滞在中、住民の微妙な空気の変化を感じました。クマの目撃情報は増えているけれど、ほんとにクマが頻繁に出てくるようになったのか、それとも騒ぎすぎなのか。少なくとも、住民はこれまでよりも敏感になっていると感じます。
考えるきっかけは、浦河町でぼくが滞在していた山小屋の横にあった“糞”でした。
握りこぶしより大きな十数センチの塊で、月曜日の朝、見つけています。

写真を撮りグーグルフォトで調べると、糞の主は「アメリカクマ、イノシシ、コヨーテ」と出てくる。イノシシやコヨーテじゃないから、ヒグマってことでしょうか。
ひがし町診療所で何人かに写真を見せたら、クマじゃないかという人もいた。まさかとは思うけれど、いちおう用心しなきゃ。
その日の夕方、診療所スタッフから電話がありました。
クマにくわしいハンターが、その糞、見たいっていってる、連れていきます。
え、専門家がわざわざ来るの? 驚いたけれど、見てくれるならありがたい。
やってきたのは、クマ数十頭を撃ったことのあるベテラン・ハンターでした。ひと目見て、クマの糞じゃない、シカだと断言しました。クマの糞は木の実の殻などがまじっている、シカは草しか食べないから、糞がなめらかなんだとか。

から騒ぎではあったけれど、“クマ前線”に少し近寄った気がしました。
診療所のデイケアには、だれもクマを見た人がいません。糞の写真を笑う人もいれば、心配そうな顔つきになる人もいる。
浦河でもクマの目撃情報が増えているけれど、ほんとにクマが出てきてるのか、それとも騒ぎすぎなのか。診療所の木村貴大ワーカーに聞いたら、両方だと思いますという答でした。
クマが山小屋の近くに来たとしても、ただちに襲われることはないとぼくは思っている。でもこういうことは人によって受け止め方がちがいます。
ぼくの滞在した山小屋には診療所の人もよく来るから、診療所スタッフとしてはやはり安全をたしかめておきたかったのでしょう。
クマをあなどってはいけない。でもクマの「影」におびえてもいけない。
山のなかに入るときは鈴の音を立てるとか、屋外に食べ物を放置しないなど、それなりの対策は立てる。あとはなりゆきです。そのうえで、先住民はどうやってクマと共存してきたのかを、もっと知っておきたいとも思います。
(2025年9月26日)