ムーミン80年

 ムーミンがこの世に誕生してから、80年になります。
 という社説を、ガーディアンが掲載しました。ずいぶんな「やわネタ」を、それも社説で扱うなんてふところが深いと思ったら、そんな話ではない。先鋭な主張が光ります。ムーミンを見直し、ガーディアンの慧眼に脱帽しました(The Guardian view on the Moomins at 80: in search of a home. 16 May 2025. The Gurardian)。

 社説は、ムーミンと難民の意外な結びつきを指摘します。
 ムーミンは1945年に最初の本が出版され、ことしで80年になる。これを記念してロンドンにムーミンの家、ムーミンハウスが建てられることになりました。場所はロンドン中心部の大型文化施設、サウスバンク・センターです。

フィンランドのムーミンハウス
(Credit: hfb, Openverse)

 北欧のムーミンが、なぜロンドンなのか。
 それはここで6月16日から「世界難民週間」が開かれるからです。そのために世界各地からアーチストやミュージシャンが訪れ、コンサートや展示、イベントを行う。ムーミンはその一環です。
 なぜなら、ムーミンはもともと難民だったから。

 トーベ・ヤンソンが80年前に出したムーミンの最初の本、「小さなトロールと大きな洪水」(講談社文庫)は、ムーミンの母親と息子が父親たちを探す物語でした。ばらばらになった家族が異郷の地をさまよい、冒険の末に再会し、家を建てるまでを描いている。
 作家自身は「おとぎ話」というけれど、これは第二次大戦直後の1945年に書かれた何百万もの難民の話であり、今日なおふえつづける難民の話でもある。

トーベ・ヤンソンが書いた最初のムーミンの本
『小さなトロールと大きな洪水』(講談社文庫)

 ガーディアンの社説はいいます。
「アイデンティティと自由を求めてさまようムーミンは、世界に見捨てられたすべての人びとの物語でもある」
 ムーミン谷にいる多種多様な住民は、大きさも形もまったくふつうではない。けれど異形の、動物や精霊やおばけにも見えるキャラクターたちは、そのままで共存している。
「ここにあるのは受容であり、同化ではない・・・今日、ムーミンはやさしさよりはかわいさが際立つブランドだ。けれどヤンソンは、彼女のキャラクターがおもちゃや台所用具に使われるより、難民週間のために使われることの方をずっとよろこぶだろう」

「ムーミンは21世紀の難民危機からはほど遠いおとぎ話だ。けれどこの不思議な世界は静かに、強く、寛容と包摂、希望へのメッセージを発している」
 ムーミンは、こんなふうに読むことができるのか。
 知らなかった。ぼくは目がさめた思いでした。
(2025年5月19日)