リウマチの新療法

 セットポイント、という名前だそうです。
 リウマチの治療に使われる微小な電子部品です。これを患者の体内に埋め込み、電気的に神経を刺激するとリウマチの症状がやわらぐ。FDA、米食品医薬品局が承認したというから、従来の薬物療法にかわる画期的な新療法でしょう。
 しかもリウマチだけでなく、神経がかかわる広範な疾患群への新しい対処法になる可能性も秘めています(New Implant Offers Hope for Easing Rheumatoid Arthritis. July 31, 2025. The New York Times)。

 リウマチは自己免疫疾患のひとつで、免疫系が自分自身を攻撃するため、組織の破壊が起きて痛みや腫れ、炎症などがみられる病気です。
 薬物療法が一般的ですが、免疫力を抑える深刻な副作用があり、治療のむずかしい慢性疾患です。日本にも数十万の患者がいるのではないか。
 このリウマチを、薬ではなく、神経を電気的に刺激することでコントロールしようというのが、今回承認された新技術です。

体内埋込装置「セットポイント(SetPoint System)」
(セットポイント社サイトより)

 セットポイントと呼ばれる新装置は、長さ1インチ(2.5センチ)、小指の先ほどの小さな電子部品です。これを患者の体内に埋め込みます。
 具体的には、脳から伸びている迷走神経の首を通る部分に接触するよう、セットポイントを外科手術で埋め込みます。そして1日1回、1分間、迷走神経を刺激する。これで免疫系が「リセット」され、リウマチによる炎症が抑えられるといいます。

 この装置を開発したセットポイント社によると、242人の患者を対象に行った治験で、半数は寛解か、症状が好転しました。
 治験を受けた患者のひとりは、長年リウマチの症状に苦しみ、薬の副作用もひどかった。セットポイントを埋め込んだら痛みは減り、楽に歩けるようになったといいます。
「以前は、痛みが1から10のスケールで6から7だったけれど、いまは2くらい」
 歩けるようになったので、ロックコンサートにも行けるようになりました。
「人生を取りもどした感じがする」

 セットポイントは臨床での応用がはじまったばかりで、専門家は長期間使った場合にどうなるかに注目しています。年月とともに効かなくなるかもしれないし、新たな副作用が起きるかもしれない。そうした事態を見越しながら、FDAは「暫定承認」としたのでしょう。
 一方、セットポイントが迷走神経に直接作用する革新性が注目され、多発性硬化症やクローン病といった、免疫や神経系がかかわる難病への応用も検討されています。最新のエレクトロニクスが医療を変えようとしているのかもしれません。
(2025年8月4日)